梅いち凛 ~咲いた津田塾生~

「なぜ」を考え、「心」に従う - 大塚杏里さん

信念の強さを物語る凛とした佇まい、カメラに向ける真っ直ぐな視線——「美容×国際協力」をコンセプトに、「すべての女の子が自分らしく輝ける世界に」を活動理念に掲げる、学生団体「Bela Virino(ベラビリーノ)」の創始者、国際関係学科の大塚杏里さんです。
明確な目標を持って新しいことに挑戦し、周囲を惹きつける大塚さん。一見、何事にも物怖じしないように思われますが、実は人前で話すのが大の苦手で、家でパソコンに向かっている時間が一番幸せなのだそうです。そんな彼女が学生団体を創るに至ったのは、なぜでしょうか。大塚さんの考える「生き方」について伺いました。
 

リケジョ(理系女子)から国際協力の道へ


「親には『ああ言えばこう言う子どもだった』と言われます。保育園の先生に『みんなと外で遊びましょう』と言われても、『なぜ外に出なくてはいけないのか』納得のいく説明を得られないと動かないほど頑固だったそうです。正義感が強く、自分が『これはダメだ』と思うことはどうしても言わずにはいられない性格でした。(笑)」


—幼い頃から「なぜ」にこだわっていたという大塚さん。この考え方が今につながっていると言います。そして高校時代には、彼女にとって「世界の見方が変わる衝撃な出来事」が二つありました。
 

「一つ目は、化学に出会ったことです。『この世の中は全て原子で構成されている』ということを知った瞬間は、世界観が根底から覆されました。目の前にあるこの机も、目に見えない空気も全て原子からできている……。見える世界が変わってとてもわくわくしたことを鮮明に覚えています。完全に理系の頭ですね(笑)。」


「二つ目の衝撃的な出来事は、高校1年のときに受けた地理の授業で『格差問題』について知ったことです。私は昔から様々なことを比較的そつなくこなすタイプで、何事も自分の努力次第で変えられて、結果は後から付いてくるものだと思っていました。この世界は平等であり、良い生活をしたいなら努力をすれば良いと思っていたんですね。」
 
 
「そんなとき、家族に見捨てられ、ゴミを拾って、マンホールで生活をしている、自分と同年代の子たちがいる、という現実を知りました。その事実はあまりにも衝撃的で、授業中に涙が止まりませんでした。そして、自分が大きな勘違いをしていたということに気づいたんです。この世界は平等ではなく、不条理で、許されざることが平気で起こっている。私は日本に生まれて、両親がいて、ごはんを食べさせてくれて、小さい頃から勉強できる環境があって、学校に通わせてもらえて、そこで友だちにも出会えて……。自分がいかに多くの人に支えられ、環境によって生かされてきたのかということに気づきました。そこからは、興味をもった、というよりも使命感に駆られました。私は国際協力の分野で社会に貢献するんだという思いが胸にすっと入ってきたんです。」
 

あきらめたら何も変わらない


 —理系から文系へ。大学の選択にあたって、周囲の人からの反対の声もあったと言います。それでも自分が学びたいことは何かを第一に考え、津田塾大学への入学を決めました。多文化・国際協力コースを選択し、国際協力について学び始めたものの、世界の問題を知れば知るほどその複雑さと根深さを思い知らされます。自分の無知と無力さへの絶望感から一度は国際協力の分野から離れようとしたと言います。しかし彼女は、「あきらめたら何も変わらない。絶望しながらもどうにかあがいていくしかない。」と思い直し、自ら行動を起こすことを選択しました。

 
「私はもともと『国際協力=ボランティア』というイメージを持っていたのですが、視野を広げてみると、『ビジネス』や『社会起業家』からもアプローチすることができるという視点を得ることができました。そこで、後者の視点から国際協力の活動に携われる学生団体を探して学内外を問わず見て回りましたが、なかなか自分のやりたいことと重なるものが見つかりませんでした。そこで、自分で新しいものを創ろうという考えに至ったんです。」
 
 
「どういう活動をしていくかを決めていく過程で、学生だからこそ生み出せる価値は何かということを必死に考えました。政府のODAやNPO団体と比べると、時間的にも規模的にも限られているという意味では、学生団体は弱い立場にあります。しかし視点を変えてみると、利害関係のない学生だからこそ、寄付の額や援助をして建てた施設の数などの数値で測れるものではなく、結果が見えにくかったり、評価が得にくかったり、反発されやすかったりすることにでも挑戦できると思ったんです。」

「Bela Virino」の活動理念についてプレゼンテーションをする大塚さん。


 「そこで、人の心を変えることができるような活動をしたいと思いました。学生であるからこそ挑戦しがいのある、国際協力の一つの『切り口』であると考えたんです。その方法を考えたときに、自分がコンプレックスを乗り越えた経験を思い出しました。小学生のときからニキビがひどく、人の顔を見て話すことが苦痛で性格も暗かったのですが、高校生のときメイクに出会ったことで、内面に変化が現れ、顔を上げて外に出られるようになったんです。この経験から、気持ちを自力で変化させることは難しくても、外見を変えると自動的に内面の変化につながることに気づきました。美容の力で多くの人の心を変えられるのではないかと思い、美容と国際協力が結びついたんです。」

 

批判に押しつぶされそうになりながら

フィリピンの女の子たちはとても前向き。明るい笑顔が印象的です。

—「美容×国際協力」という新しいものに挑戦することを決めた大塚さん。活動を始めてからは、新しく馴染みのないことだからこそ、言葉で説明しても理解を得られなかったり、批判の声を浴びたりすることも多く、何度も「もう無理だ」「解散しよう」と思ったそうです。
 
 
「活動が本格化していくに連れて、批判に押しつぶされそうになったことは何度もありましたし、様々な人の助言を取り入れようとして自分がやりたいことが何なのか分からなくなったことも多々ありました。そんな中で訪れたフィリピンで、ある女の子に化粧をする機会がありました。初めて化粧をした彼女は、鏡を見て『これが私……?』と泣いて喜んでくれたんです。その姿を見て、私がやっていることに価値を感じてくれる人はいるんだと実感し、批判を恐れていた気持ちが吹っ切れました。何事にも批判はつきものだから、良い意味で受け流していこうと思えるようになったんです。」

 「『Bela Virino』の活動で最も大きなイベントである、『ミス・ドリーム・コンテスト』は、単に外見を評価するものではありません。外見の変化に伴って、自信を持ったり前向きになったりというような、『心』の変化を実感できる場をつくりたいという思いが込められており、出場者にはステージ上で自分の夢について語ってもらいます。そのため、一般的な『ミスコン』と異なることを強調するために、『ドリコン』と略します。」

 
「初めは、大学卒業までにコンテストを開催出来たらいいな、と思っていたのですが、活動を支援する仲間からの『人間は、何事も自分が思う6分の1のスピードですることができる』という言葉に後押しされて、半年で実現させるということを宣言しました。準備不足だし、もっと国際協力について学びたいし……と行動するのをためらっていた私に、『それで、その準備はいつ終わるの?やりながら勉強すればいいじゃん。』と言ってくれたんです。活動に行き詰まり、辛くてもうだめだと思ったときも、その言葉を思い出し"今は勉強中なんだ"と気持ちを奮い立たせることができました。」
 
 
—そして2015年3月、ついにフィリピンで「ミス・ドリーム・コンテスト」を開催します。
 

本番前の舞台裏。「Bela Virino」のメンバーが、お化粧で出場者をより一層美しく輝かせます。

コンテストは大成功。出場者、その家族、応援者、そしてメンバー、みんなの笑顔が弾けます。

「なぜ」という問いを大切に


—最近は就職活動を控えた友人との間で、将来についてのことを話す機会が増えたそうです。そんな中で、大塚さん自身が考える「生き方」について語っていただきました。
 
 
「私は幼い頃から、自分の頭で考えるということを大事にしてきました。いつもそれを突き詰めて行動してきた結果、この大学に進んで、今現在の活動をしていると思っています。これが、私にとってひとつの行動原則であり、人生におけるキーワードです。」
 
 
「周りの友人と話していると『就職で困らないように、能力を身に付けなきゃ』とがむしゃらに勉強し、自分自身を追い詰めている人が多いと感じます。もちろん、その努力は成長するために必要不可欠なことだと思います。しかし、『これをしなきゃ』ということに必死で、『なにがしたいのか』が分からなくなってしまっている状況は危険だと思うんです。漠然とした不安から『なんとなく』勉強して、会社のブランドや給料、大手企業は安泰であるという『一般常識』を判断材料として就職先を決めてしまう人が多くいます。しかし、いざ何かあったときに責任を取るのは、会社でも世間でもなく、自分自身です。そのときに自分の足でしっかり立つためにも、常に自分の頭でよく考えて、人生を選択していくことが大切だと思います。」
 

「そう言うと、いかにも私が将来を深く考えて緻密な人生設計をしているように聞こえてしまうかもしれませんが、むしろその逆で、『自分の興味や直感に従って生きる』ということを提案します。子供の頃はみんな、難しいことは考えずただ純粋に自分の好きなことをしていたと思うんです。しかし、大人になっていくに連れて、世の中の常識や他人からの評価、地位や名誉など様々なことが気になって、自分の本当の気持ちが見えなくなってきます。」 
 

「だから私は、常識や自分自身への疑いの気持ちを常に持ち、『なぜ』を問い続けることで、自分の心にもやをかける偏見をできるだけ取り除こうとしています。『なぜ』と追究する問いによって、過去の体験や親の価値観、生まれ育った環境や時代の空気感などといった、『今現在の自分の思考を形成するもの』が何であるのかを理解することができます。この作業の繰り返しによって初めて、私たちの思考は自由になり、『知』に覆われて見えなくなっていた、本当の『心』の声を聞くことができるのだと思います。」


 「そうやって選択を重ねていけば、自ずと、自分が本当にやりたいことを見つけたり、自分の能力を発揮して誰かの役に立つような働き方を見つけたりすることができると思うんです。それはつまり、自分の人生の主導権を自分で握る、ということにも繋がります。自分自身に『なぜ』を問い続け、『心』に従うことこそが、人生を豊かに生きる秘訣ではないかと思います。」
 


・・・・・

 
 

編集後記

 2時間に及ぶロングインタビューにもかかわらず、終始真剣な眼差しで生き生きと語ってくれた大塚さん。大塚さんとは1年次に同じゼミに所属していたのですが、じっくりと話してみると、改めて彼女の魅力に引き寄せられました。私自身も、ついつい疎かにしてしまう「なぜ」という問いを繰り返し、自分の「心」と向き合えるようになりたいと思いました。今回のインタビューを通して、選択をすること、働くということ、そして生きていくということについて、深く考える機会を与えてくれた友人がいることに、つくづく幸せを感じたのでした。