わたしのまなびアイテム

まなびアイテム #3 - Farbe und Form

私のまなびアイテムは、歴史研究の一次資料です。歴史家にとって自分のテーマに関係する古いモノはどれもとても魅力的なのですが、なかでも、これは自分が発掘した!という実感を与えてくれるアイテムには、くらくらきてしまいます。それが美しいグラフィック表現を備えていたらなおさらです。

この写真に写っているのは、20世紀初頭のドイツに生まれたデザイン学校、ライマンシューレが発行していた雑誌『Farbe und Form』です。この学校はユダヤ系アーティストが運営していましたが、1930年代末にイギリスに設立者とその家族、ユダヤ系の教員や学生が逃れてきて、イギリス側のデザイナー、アーティストを足したかたちでロンドンに改めてライマンスクールとして開校されました。亡命してきたデザイナーや当時その学校に通った人たち(ミステリー作家アガサ・クリスティもここの写真科を受講しました)へのインタビューで聞いた壮絶なサバイバルの物語、そうして結果的に生み出されてきたすばらしいデザイン作品の数々は、とにかく印象的なものでした。

『Farbe und Form』はそもそも発行部数も少なく、海外の図書館でもなかなか閲覧できないので、インターネットを駆使して各地の古書店をさがして少しずつ入手しました。送られてきて、思わぬ人物が寄稿していたり、あるいは作品が掲載されていたりするのを見つけると、そんなひとつひとつの発見が頭にガツンと、とても心地よく響いてきます。この雑誌は、私にそうした思いを何度もさせてくれましたし、まだまだこれからも新たな発見に導いてくれそうな気がします。

モダニズム期デザインについてのマニアックな研究をしている少数の専門家にしか、このアイテムの希少さは伝わらないので、基本的には究極の自己満足でしかありません!それもよーく分かってはいるのですが、それで幸せになれる私のような単純な歴史家にとってはやはり、かけがえのないアイテムです。