わたしと津田塾大学

オンライン授業で不安なみなさんへ

 

新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。
私は英語英文学科の4年生で、イギリス文学を専攻しています。

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春の夕べに、窓の外を見ると薄橙の日が差す明るい水色の空が広がり、次第にのびる日の長さに、ささやかな慰めを感じる今日この頃。
例年とは異なる新年度を迎えることになり、様々な不安や不満を抱えている方も少なからずいることかと思います。

さて、そんな中、津田塾大学では第1ターム・第2タームの授業をオンラインで実施することになり、先生方は「どうすれば学生に興味をもってもらえる授業ができるか」「学生に『よい授業』を届けたい」と必死で色々な案を考えて下さっているという話を風の噂で聞きました。その時、ふと、『よい授業』を作るためには「学生」の努力も必要なのではないかと思ったのです。

普段、津田塾大学の授業は大きく分けて、40人~100人ほどの規模で行われる講堂や大教室の授業と、1540人程度の少人数で行われる小教室の授業という2つのタイプがあります。そして、津田塾生は自然とそれぞれの授業の規模に合わせたやり方で、真剣に授業に取り組んでいました。たとえば、「講堂・大教室の授業では、先生が講義を始めたら、友だちとのおしゃべりをやめて、先生の話を聞きながら、必死でノートを取る。分からないところは、レスポンスシートや授業後に質問する」ということ、「少人数の授業では、分からないところ、疑問に思うところについて、その場で質問や反論をする」ということをなんの気なしに行っている学生が多かったように思います。このような授業のあり方は、一見当たり前のように見えるかもしれませんが、その裏には先生と学生どちらもの努力が隠れています。

高校時代の私自身はといえば、さほど真面目に授業を受けていなかった時期がありました。その頃、授業があまり好きではなく、恥ずかしながら、教室の一番前の席になった時でさえも教科書以外の本を読んだり、授業に出席しなかったりということをしていました。ところが、津田塾大学に入学すると、そこには、キャンパスに漂う「真面目にしっかりと、でも自由にのびのびと学ぶ」という雰囲気の中で、学生たちは個々の学びや関心を深めながら、必要なときにはお互いに意見を交わすという光景が広がっていました。そのような環境で学ぶうちに、一人で本を読んでいるだけでは得られないもの、「授業」をとおして生まれる世界があるのだと気がつきました。「授業」を通じてしか得られない学びや人との繋がりがあるのです。

 
そこで今回は、「オンライン授業でも、よりよい授業を作るために学生は何をできるか」ということを、私のこれまでの三年間の学生生活を踏まえて、お伝えしたいと思います。これからお伝えするものは、一学生から見た「津田塾の授業」でしかないので、人によって授業のイメージは異なるかもしれません。しかし、少しでもその雰囲気を感じ取り、これからの大学生活の参考にしていただけたら幸いです。

大教室での学び



高校までは、先生が細かく丁寧に黒板に板書した内容をノートや事前に配られる穴埋めプリントに書き写す、ということが当たり前という方が多かったのではないでしょうか。私の高校では、ちゃんと板書をしない先生は、生徒たちに不親切で分かりづらいと嫌がられていました。 

しかし大学では、授業によって多少の違いはあるものの、先生が全てを板書するということは、ほぼありません。たとえば、一年かけてイギリスやアメリカの通史を学ぶ『イギリス概論』や『アメリカ概論』という授業では、地図や年表をスライドや配布プリントで示す以外、ほとんどすべてが口頭で行われました。

『イギリス概論』の初回の授業は、このような感じで始まります。

「えー、日本人はよく、イギリス人俳優のことを English actor と訳したり、English garden のことをイギリス式庭園と呼んだりすると思います。English garden の English を、日本語では『イギリス』と訳すんですね。でも、まあ。本来、English actor とか English garden とかの English は『イングランド人の』とか、『イングランド式の』という意味です。
そして、このイングランドは、日本語のイギリスと同じものを指しているわけではありません。イングランドというのは、イギリス全体を指すのではなく、イギリスの中にある一部の地域のことを指すんですね。
では、そもそも日本語の『イギリス』という言葉はどこから来たのでしょうか?」

 
この授業は、「身近な例えなどが出てきて、説明が分かりやすい」と学生の間で専らの評判で、私も毎週この時間を心待ちにするほど、とても好きな授業でした。それでも、先生が一方的に話すのを聞きながら頭の中で内容を整理し、ノートにまとめるという方法に慣れないうちは大変で、必死でノートを取っていたという記憶があります。 また、大学では、先生方は誰でも説明が分かりやすいというわけではなく、早口だったり、声が小さくて聞き取りにくかったり、説明が回りくどかったりと様々な個性をもつ先生の授業に出会うことになるかと思います。しかし、授業をしっかりと受けてみると、自分にとっては、とても面白い授業だった!ということもあるので、まずは授業をちゃんと聞いてみて下さいね。

これから授業が始まって、「不親切だな」とか、「分かりにくいな」と思うところがあるかもしれませんが、それは必ずしもオンライン授業のせいばかりではないでしょう。とくに講義形式の大規模な授業では、先生が一人ひとりの疑問点を察して補ってくれるということは、難しいことなのです。もし分からないところがあれば、先生に質問をしたり、本やインターネットで調べたり、友だちに聞いたりしてください。津田塾は親切で面倒見のよい先生が多いので、質問をすれば丁寧に答えて頂けると思います。私も授業中に分からなかったところがあれば、授業の最後に配られるレスポンスシートで質問をしたり、授業が終わった後に先生に質問をしたりしていました。オンライン授業になっても、先生に個別に質問したり、インターネットで調べたりということはできるはずです。

そして、何よりも重要なのは一緒に勉強をする友人です。分からない部分を互いに教え合うことで、授業への理解をより深めることができるのです。

 

では、どうやって友人と勉強をすればよいのでしょう?



津田塾の食堂やカフェでは、同じ授業を受けている友だちと勉強する、という光景をよく見かけましたし、私もよく友人と一緒に大学で勉強をしていました。 友人がいなければ乗り越えられなかっただろうという授業も、いくつもあります。
 
ところが、オンライン授業になったことで、「同級生と仲良くなって学ぶという機会がなくなるのではないか」と心配する声も聞くようになりました。オンラインで一緒に勉強するということ自体は、通信料の問題さえなければ、不可能ではありません。実際、私は試験前の平日の夜や土日に、なかなかお互いの予定が合わない友人と、音声のみのLINE通話で勉強をしていました。一度、友だちを作ってしまえば、オンラインでも勉強会はできるのです。

なので、やはり一番の問題は、どうやって勉強仲間を作るかでしょう。大人数の授業では、顔馴染みでもない人に声をかけるというのはかなり勇気のいることなので、難しいかもしれません。
しかし、少人数制の授業であればそれほど人数が多くないので、Zoomなどでお互いに顔を合わせているうちに、顔見知りになる可能性は十分にあると思います。先日、私も少しZoomを使ったのですが、発言している人の顔は画面にアップで表示され、誰が発言しているかが分かるようになっていました。少人数の授業であれば、お互いの顔も覚えられそうですよね。また、先生によっては、同じ少人数制の授業を受けている学生同士で、連絡を取り合えるような工夫もして下さるみたいです。

そうやってさまざまなツールを使いながら、同じ少人数の授業を受けている学生の中に、大人数の授業が被っている学生がいないか探しましょう。そして、ぜひ一緒に勉強できそうな子を見つけてください。初対面の人と話すのはすこし苦手……という方もいるかもしれませんが、大丈夫です。一年が終わるころまでには、自然と一緒に勉強する友人ができているものです。

一緒に勉強する友だちを探す際には、各授業に少なくとも一人は知り合いがいるという状態を目標にするとよいかなと思います。しばしば「津田塾生はグループ行動をしない」と言われるのですが、友人たちを見ていても、「固定のグループでずっと勉強をする」ということはあまりないような気がします。個人的な印象ですが、勉強仲間を「この人」や「このグループ」と決めずに、授業毎に勉強仲間を作っていくという学生が多いです。
そのためか、学年が変わった時に友だちに気兼ねせず、みんな自分が受けたい授業を自由に取っているというイメージがあります。

かといって、勉強会が終わったら、友人関係が終わりというわけでもないので、安心してください。その勉強仲間から、たとえ次の年に授業が被っていなくても、お茶をしたり、連絡を取り合ったりという友人ができたりもするのです。

 

 

少人数での学び



次に、津田塾の魅力でもある、少人数制の授業の様子についてお話したいと思います。

学生の質問や議論が活発な少人数の授業に出会うことがありますが、中でも、実際に英文を翻訳しながら学ぶという『翻訳の世界』は、とても強く印象に残っています。 この授業内で前後の文脈がない一文を自由な発想で翻訳するという練習の際、一人の学生が"How does a fish get air? you will ask."を、「どうやってお魚しゃんは息をしてるの?」と翻訳しました。たしかに、これはいかにも小さな子供がしそうな質問ですよね。 ところが、この翻訳に対して、別の学生からは「小さい子が話してるなら、漢字は知らないはずだから、『お魚』はひらがなの方が良いかな?って思う」という意見が出たのです。 

このように、この授業では、先生への質問や学生同士での意見交換がとても盛んに行われていて、「この文章の雰囲気からすると、対象となる読者層はどこか」「読者層に合わせると、どういう文体にするか。平仮名と漢字の割合はどうするべきか」などもよく話し合われていました。しかし、この授業は始めから議論が活発だったのではありません。最初は1人、2人ほどの学生が先生に質問していたのですが、次第に他の学生からも質問や意見が出始め、「質問や意見を言う」という雰囲気ができていったような気がします。

また、別の翻訳の授業では、同じクラスの学生が、「今、ちょうど勉強している『翻訳におけるジェンダー問題』に関連する記事を見つけたから配るね。英語では、LGBTの人をheでもsheでもなく、“they”で表すという動きが出てるんだって。もし自分が翻訳する文章に、この”they”が出てきたら、みんなはどう翻訳する?」と飛び込みで記事を持ってきて、それを元に議論が白熱したということもあります。この授業では元々、先生が一人の学生に意見を求めた後に、別の学生に「○○さんはこう言っているけれど、あなたはどう思う?」と意見を聞き、それが波及して、クラス中の学生で議論になるという事がよくあったので、気軽に記事をもって来られたのだと思います。授業によっては、進度を妨げられると困るということもあるかもしれないので、そこは気をつけてくださいね。

とはいえ、津田塾の先生は、質問はもちろんのこと、たとえ先生と異なる意見でも受け入れてくれる方が多いです。
ここでは、翻訳の授業を取り上げましたが、他に「Literary Reading」や「フランス語」、「ロシア語」のような外国語科目などでも、活発な授業になっていったという経験をしたことがあります。授業中は怖れずに、積極的に質問や意見を言いましょう。そうすることで、授業がより活性化し、他の学生の新しい意見や視点を知る機会が増えると思います。

 

さいごに



オンライン授業になり、大学のキャンパスで授業を受けられないことで、「せっかく頑張って大学に入ったのに、しっかりとした教育を受けられるのかな……」、「オンラインでも、友だちができるかな……」と不安を感じる新入生もいるかと思います。また、入構制限もかかり、さまざまな不自由を感じることもあるでしょう。 しかし、これまでお話してきたように、大学での学びは「自分がどう動くか」次第で、変えることができるのです。 

もし何か困ったことがあれば、先生に相談しましょう。津田塾は、先生と学生の距離が近く、親切な先生がたくさんいます。今年は授業の形式が大きく異なるかもしれませんが、オンライン授業になっても大学のキャンパスに存在している学びの精神は、一人ひとりの努力で生き続けさせられると信じています。

先生と学生、みんなで力を合わせて『よい授業』を作っていきましょうね!

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みなさんの学びが、実り豊かなものになりますように。そして、何よりも、お体に気をつけてお過ごしください。
元気にキャンパスでお会いできる日が来るよう、祈っております。