梅いち凛 ~咲いた津田塾生~

「赤十字」という国際的な舞台で - 田中 友美乃さん

誰でも一度は目にしたことがある、白地に赤い十字のマーク。赤十字は、スイスのアンリー・デュナンが創設した、「苦しみの中にいる人を助けること」を目的に、世界190の国と地域で活動する世界最大の人道組織です。国際関係学科の田中友美乃さんは、高校時代から赤十字の一員として活動し、大学在学中にはさまざまな国際会議に日本赤十字社のユースボランティア代表として出席しました。日本の高校生が、世界的な組織の国際会議に参加するようになるまでには、どのような経緯があったのでしょうか。今回の「梅いち凛」では、国際的な舞台で活躍する津田塾生、田中友美乃さんにお話を伺いました。



赤十字との出会い

「赤十字との出会いは自分が高校2年生のときでした。日本赤十字社神奈川県支部が主催しているリーダーシップ・トレーニング・センター(以下、トレセン)に参加したのがきっかけです。高校に掲示されていたトレセンの募集ポスターを見て赤十字への興味を持ち、参加を決めました。トレセンは、リーダーとして必要な精神を身につけ、赤十字に関する知識の理解を深めるための学習活動の場であり実践の場です。ちょうど国際協力や開発というものに興味を持ち始めた時期だったので、『赤十字基本七原則』などを学んだことはとても新鮮でした。」
 

-その後、シンガポールとの交流事業に参加するなど、積極的に赤十字と関わりを持っていたという田中さん。大学入学後も、ボランティア活動を続けるために、赤十字の奉仕団に入団したそうです。

「私は現在、二つの奉仕団に所属しています。一つは神奈川県青年赤十字奉仕団。様々な活動を展開する青年赤十字奉仕団は、防災・減災のため救急法の普及や、献血推進やHIV/AIDS予防啓発活動行います。また、赤十字の一般的なイメージとして、自然災害が起きた後の救急支援活動があると思いますが、近年日本赤十字社は、災害に『備える』という視点を持った活動を展開しています。それに対応して、われわれボランティアも、地域との関わりの中で、地震や津波、さらには原子力災害等を想定した活動展開について考えています。」

「もう一つは、神奈川県国際赤十字奉仕団です。活動内容は大きく分けて二つあり、一つは国際人道法の普及です。国際人道法では、文民を攻撃してはならないことや、赤十字マークのついた施設、車、全てのものを攻撃してはならないと決められているのですが、それが守られていないがために紛争地帯で襲撃に遭って、民間の人や赤十字関係者が亡くなってしまうという事態が起きています。そこで、いかに国際人道法が重要かを学び、赤十字の活動をするにあたり、行動指針として生かしています。もう一つは県支部主催の国際交流事業等での翻訳・通訳です。ついこの間も、シンガポールの赤十字社が県支部に来た際に、私も通訳として活動しました。」


日本の代表として

-このような活動の中で、田中さんは高い語学力と赤十字に対する深い理解を生かし、2013年、シドニーで行われた『世界ユース会議』『国際赤十字・赤新月社連盟総会』の両会議で、日本赤十字社のユースボランティア代表を務めました。そして2015年、ジュネーヴで開催された三つの会議『国際赤十字・赤新月社連盟総会』『赤十字・赤新月運動代表者会議』『赤十字・赤新月国際会議』へも出席しました。

「一連の会議は、今後の方針を決める言わば赤十字の最高意思決定の場でした。そういった場にボランティアが出席し、共に話し合いをすることで彼らの声が反映された意思決定をするというスタイルは、赤十字という組織ならではですね。また、若者の運動参画が注目されていることから、若いボランティアである私のような立場の代表選出が行われ、各社の代表団に組み込まれました。次回の会議までに果たすべき目標から長期的なものまで、様々なトピックスで分けて、議長を中心に話合いや決議を行ないました。また期間中、ユース代表による会議も行われました。全体ミーティングの他、地域毎に分かれ行われるものもありました。日本が属している『アジア大洋州ユースネットワーク』の会議では、全体目標の他、四つの活動分野に分け話し合いが行われました。私は『Disaster Risk Reduction(災害リスク軽減)』チームの担当です。自然災害について日本赤十字社が提供できる知識や経験はたくさんあります。そこで、日本で展開発展している学校をベースとした災害教育の取り組みをシェアしました。自分たちが今後どういうアクションをしなければならないかをユースボランティア自身が考え、連盟や各社と共に展開していきます。今後は、ウェブ会議を活用し話を進めていく予定です。」

会議での田中さん(右)。会議は英語で臨むのだそう。(写真提供 日本赤十字社)

-国際会議に出席する際に、田中さんはどのような準備をされたのでしょうか。

「実は私はこれまで広報や募金に関わる活動を中心にしていたので、災害支援についての知識がさほど多いわけではなかったのです。ですが、私と一緒に活動している仲間がその分野に関する知識があったので、その仲間の意見を代弁するのが日本赤十字社ユースの代表としての役割だと考えました。そこで、仲間の話を聞いたり、全国にいるユースの仲間たちと、日本赤十字社はどうするべきか、海外とどう協力していくべきかなどを一緒に考えた上で、会議に臨みました。他にも職員の方とのブリーフィングや、組織として見た日本赤十字社の課題についても考える時間を作っていました。」


大学での学び、そして

 「赤十字は非政府的な組織です。ポリティカルな影響を受けない独立性を持ちながら、政府との協力体制を築ける位置にいる、非常に特殊な組織です。だからこそ、社会の仕組みやそこで何が起きているかを分かった上で自分たちの意思決定をしていく必要があると思うんです。そこで津田塾での社会、政治、経済などに関する学びが、マクロ・ミクロ両方の視点から物事を見るきっかけを与えてくれていると感じます。このような学びは、自分の活動や考え方を作るうえで重要だったと思います。また、1年間アメリカへ留学していたのですが、そこでの学びも非常に大きいものでした。本当に人の縁に恵まれて、Student Government Association(学生自治会)での活動や学外のボランティア活動をさせてもらったり、一般的な留学とはまた違った1年間でした。専攻していた社会学の他に、副専攻としてグラフィックデザインを学んでいたので、それを日本に持ち帰り、赤十字の活動の中で写真を撮ったり、チラシなどを作りました。留学を通して得た技術を実践できる場があってよかったと思います。」

-色々な経験を通して、自分の活動範囲を広げ続けている田中さん。最後に、今後の赤十字での活動の展望について、次のように語ってくれました。

「赤十字は、人のためにある人の組織なので、常に現場と向き合い続けるべきだと思っています。そのような活動の最前線にいるのがボランティアなので、赤十字・赤新月社とボランティアが一緒になって、これからも地域・社会・世界で活動する組織であり続けるべきだと考えています。日本でも、社とボランティアが協働し運動展開していくために、今後も提言や活動を続けていきたいと思います。もし赤十字へ興味を持った方がいたら、ぜひ仲間になってくれたら嬉しいですね。私は、赤十字という組織を通じ、奉仕団での活動や国際会議への参加だけでなく、毎年NHKと共催している募金キャンペーン『NHK海外たすけあい』の広報を担当したり、ソーシャルメディアを活用した、全国のユースボランティアのネットワークの構築に取り組んでいます。このように、赤十字への関わり方は本当にたくさんあり、自分の興味のある分野で、自分の得意なことを生かしたボランティア活動をできる場だと思うので、ぜひもっと多くの人に活動に参加してもらいたいと思います。」