人生と学び

人生と学び#17-学生の魂(スピリット)に自覚の火を灯せたら

国家公務員や民間企業の役員、大学教員など、さまざまな経歴をおもちの津曲俊英先生は、総合政策学部にて、「法からみた社会」「統治システム論」などの授業を担当されています。
「人生と学び」第17回では、津曲先生に前職でのご経験はもちろんのこと、津田塾大学にいらっしゃった理由、学生に伝えたいことなどをお聞きしました。

様々な経験

—津曲先生は津田塾にいらっしゃる前、どのようなお仕事をされていたのですか?

大蔵省などの国家公務員、その後は成田国際空港株式会社の役員です。その間、金融制度、税・財政、国際金融、関税・税関、財務政策研究、物価問題に携わり、ブリュッセルでの海外勤務も経験し、在ベルギー日本国大使館、欧州連合日本政府代表部両方の書記官も務めました。他にも外交の仕事、大学での講義など、いろいろなことをしました。

—法学部を卒業されていますが、どうして大蔵省に入省したのでしょうか?金融にはもともと興味があったのでしょうか?

たまたまですね。公務員にはなろうと思っていましたが、その中でも幅広くいろいろな仕事ができそうだったから大蔵省に入りました。何か人の役に立ちたいと思っていたので、その中で考えました。ある意味、モラトリアム人間でしたね。なかなか物事を1つに決めることができないというかね。

津田塾大学と津曲先生

—いろいろなお仕事をされてきましたが、なぜ津田塾大学にいらしたのでしょうか?

総合政策学部っていうのは、法も理解し経済も実務もわかるような人を求めておられたんでしょう、きっと。そこで、どうですかというお話をいただいて。あと何年仕事ができるかなって思った時に、大学でこの教育・研究に携わるのもいいかなと思ったからです。

—では今は教員生活をエンジョイしておられると?

エンジョイというか・・・大変ですね(笑)。授業の準備とかは本当に大変です。でもそれだけ刺激があっていいです。この総合政策学部はおもしろいですね。

—前職での経験が活きているなと思うことは?

僕は実際に法律を使って仕事をしたり法案を作ったりする、現場脳でやってきているから、1年生の「法からみた社会」でも、字面だけじゃなくて、実際にこういうふうに使われてるよねって実務経験に基づいた話ができているのかなと思いますね。これは「日本の財政・金融」もそうだし、2年生の授業もそうですね。3年生の授業だと、「統治システム論」も実際にどうやって仕組みが作られたかということを考えてたり、僕は外務省に5年いたので、日本だけじゃなくて、「日本を外からみたらどうだろうか」と考えたり、そういう視点をもっているかなと思います。自分のわかっていること以外喋れないからしょうがないじゃない(笑)。あとは財政に関しては、総務省にいたので地方財政にも関心があるんですよ。財政って国の財政の数字ばっかり見るけれども、地方財政まで合わせた全体の姿や数字をできるだけ見ようとしています。

—総合政策学部では、経済分野を専門領域とされていると思いますが、それはどのように決まったんですか?

僕の専門分野はパブリック・ポリシー(公共政策)とエコノミック・ポリシー(経済政策)ですね。所属としてはエコノミック・ポリシーにいるけれども、実際授業自体はエコノミックもパブリックもやっているし。だからミクスチャーのところがあったら、本当はそこにはめてもらうのが一番なのかもしれませんね。パブリック・ポリシーとエコノミック・ポリシーがどのように相互作用してるかってことを現場見てきた経験があるので、津田塾からはそこを期待されていたのだろうと思います。

—津曲先生は総合政策学部で唯一パブリック・ポリシーとエコノミック・ポリシー両方の授業を担当される先生なんですね。つまり経済分野だけではないということですね?

そうです。実際問題、どのように両方を組み合わせて世の中を見ることができるかという視点を学生に提供したいと思っています。だから経済の教科書のように教えてほしいと言われても僕には辛い(笑)。
3年生の「統治システム論」は総合科学だと思って今一生懸命やっています。つまりパブリックである1年生用の「法からみた社会」、エコノミックである2年生用の「日本の財政・金融」、それらを合わせたのが3年生の「統治システム論」ってことですね。要は「統治システム論」をそれらの仕上げにしているということでしょうか。

学生たちに伝えたいこと・津曲先生の視点

—学生に求めてること・感じていることはありますか?

僕の授業を聞くことによって、学生の魂(スピリット)に自覚の火が灯ればいいなと思っています。僕の話を聞くことによって、「あ、そうだ!」と考えつくというか、「何かやってみようかな」と、こういうふうに魂に火が灯ればいいなと。知識を切り売りするつもりは全くないですし、そんなに持っていません。だって知識は本を読んだり調べたりすればいいじゃない。僕が今まで経験してきたこと、考えてきたことを話すことで、学生がインスパイアされれば最高だなと。

—そのような信念をもって授業をされているんですね。

そうですね。“Chance favours the prepared mind” という言葉がありまして。僕はこれらの言葉を、「何かのissueに関心をもって、自分なりに真摯に調べたり考えたりしていると、そのissueに関わるか否かは別にして、気づきや発見というチャンスが生まれる」と理解しています。これは自然科学だけでなく社会科学においてもそうだと思っています。だから、僕が言ったことで何か触発されて、学生が関心を持ち、「あ、これと関係するな!」と思ってもらえたらいいなと。これは「統治システム論」のシラバスに書いてあります。まあ、皆さんそこまで細かくは見ていないでしょうね(笑)。

—学生に伝えたいことはありますか。

考えることを大切にしてほしいです。とにかく問題意識をもって考えてほしい。見た情報をすべて信じるのではなく、自分で考えて判断してください。皆さんは昼間に星を見たことがありますか?昼間に星は見えないと思いますか?僕は理屈で考えたら昼間でも星は見えるはずだ!と思って、見に行ったら星を見ることができたんです。海外とかではなく、日本ですよ。学生には理屈と事実の関係を考えてほしいです。

—最後の質問になりますが・・・先生はなぜそんなに腰が低いんでしょうか?他の学生も言っていました。

足が短いからです(笑)。世の中にはどこでも高圧的な人はいるし、僕もいざって時はなんだ!って怒る時もあります。でもこんなもんでしょう。自分の身の丈に合うようにやっているだけです。

 

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素晴らしい経歴をおもちの津曲先生が、なぜ津田塾大学に来ようと思ったのか。先生の専門領域はどのようにして決定されたのか、そしてなぜ腰が低いのか・・・。
たくさん聞いてみたいことがあり、津曲先生の本質に迫れるようなインタビューを目指しました。
この記事の文面から伝わってくる通り、本当にあたたかく、優しい先生でした。
記事をとおして津曲先生のことを知っていただけたら幸いです。