人生と学び
人生と学び #16 - 知ってほしい、聴導犬のこと
総合政策学部で政治学の授業を担当する中條美和先生は、その数少ない聴導犬と共に生活をされている方のひとりです。
先生をサポートするのは雑種犬の次郎くん。
今回は、先生の経験を基に、聴導犬の役割や生活についてお話ししていただきました。
次郎くんと出会うまで
— 先生が聴覚障がいと診断されたのは、いつ頃だったのでしょうか。
「病院の検査を受けて、聞こえていないと診断されたのは小学校1年生のとき。それまでは多少聞こえていて、舌ったらずでも話はできていたから親が全然気が付かなくて。小学校に入学して担任の先生から、言葉の発音が悪いし反応も鈍い、もしかしたら聞こえていないのではと心配されて、それで初めて病院に検査を受けに行ったんです。」
「それ以来、基本的には補聴器で音を拾って、あとは口の動きを読み取って会話をしている感じかな。家族の会話は十分に聞こえるから、小さい頃から手話は全く使わなくて。大学生の時に手話サークルで少し手話を覚えたけれど、日本だと使う機会が本当に無いですね。」
— 補聴器と、口の動きを読み取ることでテキパキと質問に答えてくださる中條先生。そもそも、聴導犬を申請したきっかけは何だったのでしょうか。
「アメリカに8年ほど留学していた時、私と同じく聴覚に障がいがあった大学の先生が聴導犬を連れて歩いていて、あれいいな、と思ったのがきっかけ。聴導犬を連れて歩くのも悪くないな、くらいの軽い気持ちでしたね(笑)。」
今はまだ手探り状態
— 次郎くんは現在5歳。お互いにまだ戸惑いがあるといいます。
「実は、次郎が聴導犬の試験に合格したのが昨年の9月。私と生活するようになってまだ5ヶ月ほどしか経っていないんです。聴導犬の申請をして、次郎とのマッチングはその前から始まっていたのだけれど、私が昨年の春まで1年間海外に行っていたこともあって思うように訓練が進まなくて…。帰国してから半年ほどの期間で、次郎との訓練を進めていきました。だからまだお互いに探りながら生活している感じです。」
「訓練の第一段階は、次郎が私の家に慣れること。訓練士さんと次郎が定期的に家に通って、徐々に一緒にいる時間を長くしていく。だんだん慣れてくると、訓練士さんの指示のもと次郎に音を教えていくのだけれど、これが意外と大変。音が鳴った時にその音に興味を持ってもらえるように、音源のところに餌を置いておくのね。音が鳴ったらその場所に行かせて、そこに行くと餌がある、ってまずは覚えてもらう。10回程度そうした訓練を繰り返すと、音が鳴る=餌をもらえる、と認識するみたい。音源のところに餌をおかなくなると、今度は餌をもらうために教えに来てくれるようになるんです。」
「音が鳴ると、基本的に聴導犬は飼い主の体のどこかにタッチすることで音を知らせるのだけれど、そのスタイルは人それぞれ。次郎の場合は鼻で肘のあたりを持ち上げて音を教えてくれていますね。」
— インターフォン、キッチンタイマーといった生活音や、大学のチャイムなどの音を次郎くんには覚えてもらっているとのこと。
しかしながら、聴導犬の役割は音を教えることだけではないようです。
それが次郎のおかげで、袋をわかりやすく見せてくれるようになったりして。はっきりと話してくれたり、指差しで伝えてくれたりする方も増えて、生活がスムーズになったかな。」
聴導犬は常に仕事中
— 現在、日本で活躍している聴導犬は68頭。盲導犬が941頭であるのに対して、圧倒的に少ないことが分かります。
中條先生は、聴導犬の認知度の低さを感じたことはあるのでしょうか。
「それはもう度々。ペットだと勘違いされることが本当に多いですね。ラブラドールレトリバーなどの大型犬だと一目で盲導犬ってわかってもらえると思うけれど、聴導犬は小型犬の場合も多い。人懐っこい性格の犬であれば、体格を問わずどんな犬種でも聴導犬になれるんです。実際私も、他大学のキャンパスに入ろうとしたら警備員の方に、ペットは禁止ですよって止められたり、飲食店では入店を断られたり。断られるかも、と思って自分から遠慮することもよくありますね。毛が付いたら悪いな、っていう思いもあって。」
— あまりの可愛さに、つい触りたくなってしまいます。街中で聴導犬を見かけた際、私たちが気にかけなければならないことはありますか。
「触ったり、注意を引いたりすることはせずに、見かけてもいないものとして無視してほしい。注意が別のところに向いてしまうと、そちらに気を取られて私の指示を聞かなくなってしまうんです。
私の足元で休んでいるように見えても、実は耳を立てて、音を敏感にキャッチしているのね。ペットのように見えるけれど、聴導犬は常に仕事中。
そのことを意識して、私たちを温かく見守ってもらえるとありがたいです。」