わたしと津田塾大学
津田塾大学とインディアナ大学インディアナポリスの繋がり
はじめに
津田塾大学は、アメリカ合衆国インディアナ州に位置するインディアナ大学インディアナポリス(Indiana University Indianapolis, 略称:IUI)と長年にわたる交流関係を築いてきました。本記事は、津田塾大学の学生が、同大学国際センターの協力を得て作成したものですが、前半では、両大学の提携の歴史と具体的な交流の内容、これまでの交換留学の実績について紹介し、後半では、IUIで講師をされている、河野 錦 ゆりか先生へのインタビューをお送りします。
始まりは英文学科のサマースクールから
津田塾大学とIUIの交流は、英文学科(現:英語英文学科)のサマースクールとして1994年に始まりました。このプログラムは、本学英文学科のメアリー・アルトハウス先生と、IUPUI*1(現:IUI)で教鞭を執っていたウラ・コナー先生との個人的なつながりによって実現したものです。
この初期の交流は、英文学科に所属する学生を対象としたものでしたが、「英語圏の大学との連携」という意味で、津田塾にとって大きな第一歩となりました。
*1 IUPUI(Indiana University - Purdue University Indianapolis) :インディアナ大学とパデュー大学が共同で運営していた都市型キャンパス。2024年7月に組織再編され、インディアナ大学インディアナポリス(IUI)へ改称。
全学科対象の語学研修へと拡大
2003年には、英文学科に限定せず、全学科の学生を対象とした「インディアナプログラム*2」がスタートしました。津田塾大学主催の語学研修であり、両校の交流の裾野が広がり始めました。IUPUI側の教職員も、毎年津田塾大学で開催される説明会に足を運び、研修に参加予定の学生と直接交流するなど、両校の信頼関係はさらに深まりました。
*2 インディアナプログラム:1994年に始まった津田塾大学主催による語学研修プログラム。約3週間にわたり、ライティング力とスピーキング力の向上に重点を置く。「Women in Leadership(女性のリーダーシップ)」をテーマに、ゲストスピーカーやホストファミリーなどとの交流を通じて、アメリカ文化や女性のリーダーシップへの理解をさらに深めていくことを目的としている。
学生交流協定と発展
こうした交流の中で、IUPUIに日本語を学ぶ学生が在籍していることを受け、学生交流協定が結ばれるに至ります。当初、津田塾大学からの派遣協定*3という形で始まりましたが、両大学間の関係深化に伴い、2021年には学生の相互派遣が可能となる交換協定*4が結ばれました。そして翌年度から、交換協定に基づく交流が開始されました。
*3 派遣協定:津田塾からのみ学生を派遣できる協定。受け入れは行わない。
*4 交換協定:学生の相互派遣が可能な協定。本学の学生を派遣し、同時に協定校からも留学生を受け入れる。
交換留学の実績
以下は、 これまでの交換留学の実績です。
| 年度 | 参加者数 |
| 2022年度 | 15名 |
| 2023年度 | 19名 |
| 2024年度 | 24名 |
| 2025年度 | 15名 |
| 区分 | 期間 | 人数 | 備考 |
| 津田塾大学からの派遣(派遣協定) | 2010年度以降 | 計20名 | 一方向の派遣 |
| 津田塾大学からの派遣(交換協定) | 2022年度以降 | 計4名 | 双方向の交換留学 |
| IUPUI / IUI からの受入(交換協定) | 計7名 |
年度による変動はありますが、毎年多くの学生がこのプログラムを利用して語学研修に参加していることがわかります。また、交換協定に基づく交流を開始して以降、IUPUI / IUI から7名の学生が津田塾大学へ留学しています。
活発な学生交流と人とのつながり
交換協定締結後、両大学間の学生交流はますます活発になっています。語学研修の事前説明会では、今もなおIUIの担当者が津田塾大学を訪れ、学生に向けて直接説明を行うなど、密な連携が続いています。また、IUIから来日した交換留学生が帰国後に津田塾大学からの派遣学生を現地でサポートするなど、交流は一過性のものではなく、長期的なつながりへと発展しています。今後も、津田塾大学とIUIとの協定関係を通じて、国際的な学びと友情の輪が広がっていくことが期待されます。
・ ・ ・
IUIについて興味を持っていただけたでしょうか。
ここからは、インディアナ州に在住で、IUIで講師をされている、河野 錦 ゆりか先生へのインタビューをお届けします!
河野 錦 ゆりか先生は、2023年度、2024年度、2025年度のインディアナプログラムでシャペロン*5として、津田塾生の学習や生活をサポートしてくださいました。アメリカで暮らす中で感じたことや、IUIで日本について学んでいる学生のこと、津田塾大学のインディアナプログラムについて伺いました。
*5 「付添人」、「引率者」などの意味があり、インディアナプログラムにおいては、 現地で津田塾生を受け入れ、プログラム期間中に学生のサポートを行ってくださるIUI教員を指す。
河野先生は現在、アメリカのインディアナ州に生活拠点を置いていらっしゃいますが、それまでの経緯についてお聞きしたいです。
子どもの頃から何かの分野で博士号を取ろうと決めていて、大学時代は生物、化学全般を学んでいました。グルコースが細胞に取り込まれエネルギーになる過程の「取りこまれる」という部分に興味をもち、それに感動を覚え、インディアナ大学医学部の博士課程に進みました。大学生活では教職課程も同時に学び、今の職業にもつながっています。
博士課程1年の時に結婚し、2年の時に息子を出産しました。博士課程修了後、同じ研究室で研究してきた夫と共に、アメリカでも関連する研究を続けることに決めました。インディアナ州には、インスリンの製剤化に成功した大きな会社があり、インディアナ大学医学部でインスリン*6やグルコース*7の研究をすることは自然な流れでした。
*6 すい臓から分泌されるホルモンのことで、血糖値を下げる働きがある。
*7 米やパンなどの炭水化物が体内で分解されてできるもの。脳や体を動かすために必要な、最も基本的なエネルギー源。
IUIで日本語を教えることになったきっかけは何ですか?
渡米してから5年間、必死で研究生活をしていました。当時最先端の実験をしたり、私の博士論文執筆に際して大きな支えとなった論文の著者が隣の研修室にいたり、日本では行けなかった国際学会へ招待されたりするなど、興奮する一方で、夢見た世界で繰り広げられていたポジション争いや、ある研究者が何ヶ月もかけて出したデータが、他者の手で左右逆になってその人のストーリーで語られるなど、科学の捏造を歯をむき出してまでする世界を目の当たりにし、同じくらいの失望にも襲われ、悔しさと日本へ帰りたい気持ちでいっぱいでした。
研究ばかりの生活で、子育てが二の次になってしまったこともあり、思い切って長い休みを取ることにしました。すると、それまで全く見えていなかったアメリカの人々の真の豊かさや優しさが心に沁みたんです。アメリカやアメリカの人々のことをもっと知りたい、アメリカで教職を取りたいと思っていた矢先、IUPUIの日本研究科で人員が不足していることを知りました。周りの先生方が全面的に私をサポートしてくれたことで、教壇に立つことができました。
日本とアメリカという異なる環境で感じた文化の違いについて教えてください。
言語の壁、文化(食べ物、習慣、行事など)も大きかったのですが、それ以上にアメリカ社会のシステムそのものを理解、把握できず戸惑うことが多かったです。「自分の立ち位置」という点では、自分自身と深く向き合い、再構築する必要がありました。決定的だったのが、子どもたちが学校で「心理学に基づいたコミュニティ形成」を学んでくることです。彼らの学びに触れ、私自身も改めて「人としてどうあるべきか」を見つめ直すようになりました。
また、アメリカという日本と異なる文化に置かれた時に気付くことができたのが、性別、年齢、人種、職業、経済状況に関わらず、「一人ひとりが尊重される存在である」ことが社会の根底になくてはならないという一つの価値観です。例えば、「NO」は一度のNOで明確な意思表示とされます。
大学教員として、毎年ハラスメント講習を受講することもその一環です。学生とも上下関係ではなく対等な立場で意見を交わし、真摯に向き合う姿勢を大切にしています。
IUIで日本について学んでいる学生の皆さんは、日本に対してどのような印象をおもちでしょうか?また、河野先生は彼らについてどのような印象をもっていらっしゃいますか?
まず最初に、インディアナ州はアメリカ中西部に位置しており、カリフォルニアやニューヨーク、ボストン、シカゴといった大都市とは状況が異なります。とはいえ、インディアナ州には多くの日系企業が進出しており、地域の雇用や産業を支える重要な役割を担っています。一方で、州全体としては保守的な傾向が強く、生まれ育った土地でそのまま働く人が多い地域でもあります。
IUIの学生が日本を好きな理由はさまざまで、アニメや映画、漫画を通じて日本のコンテンツに自然に親しんだことや、日本の制度の整備や街並み、人と人との関係性の密さなどが挙げられます。
それでも、インディアナ州には、日常生活の中に日本文化が溢れているわけではありません。インディアナで育った学生が日本について知っていることは、全体として非常に限られています。私が日本語を教え始めた頃、日本人の友達をもつ学生はほとんどいませんでした。言語を通じて友達を作ることは簡単ではありません。
そうした中で、学生たちはひらがなやカタカナを覚え、漢字や文法に挑戦しています。これは本当にすごいことで、特に1年生の学習を経て2年目のクラスに進学する学生たちは、非常に優秀で勤勉です。
日本で英語を学ぶ学生に比べ、アメリカでは日本について得られる情報量が圧倒的に少ない中、「アニメを見たい」「音楽を聴きたい」といった自分の興味を出発点に、独自の検索力で乗り越えているように見えます。
インディアナプログラムでは、河野先生はどのようなことをされているのですか?
津田塾の学生の健康と安全を第一に考えています。ホームステイ先でトラブルが起きていないかという連絡、バスでの登下校に問題はないか、IUIの学生と仲良くできているかなど、健全に過ごせるように見守っています。津田塾の国際センターにレポートを書くことになっているので、IUIの学生との交流など、プログラム中にどんなことをしたのか具体的にお伝えしています。
また、皆さんはアメリカでいろいろなことを吸収して帰りますが、アメリカと日本ではシステムに違いがあるため、その齟齬で感じた要素が悪い方向に転換されないよう、互いが不快な思いをしないように様子を見ています。
河野先生が感じた、津田塾や津田塾の学生の印象について教えてください。
2023年度、2024年度、2025年度にシャペロンをしましたが、聡明で、知的で、一人ひとりとても魅力的だと思いました。何よりチームワークがあります。個人で留学するのもいいですが、こうやってチームで留学することで、1人の経験が全員の経験となり得ます。また、日本に帰ってきてからも留学を振り返ることで、学びが何倍にも深まるのだと思います。励まし合える仲間と少しの困難に挑むというのは、素晴らしい冒険だと思います。シャペロンとして、皆さんと同じくらい魅力的なIUIの学生との交流を約束します!
・ ・ ・
津田塾大学とIUIの30年以上にもわたる交流と、その交流を支えてくださっている方の思いを見てきました。異なる言語や文化をこえて学生同士が互いに学び合い、心を通わせ合うことは、奇跡のように感じられます。
これからも両大学の関係がますます発展することを願って。










