津田塾探訪
セミナー訪問 網谷龍介先生・小野創先生
夏期休暇が終わり、キャンパス内に賑やかな声が戻ってきました。津田塾生の皆さんは充実した夏休みを過ごすことができたでしょうか。第3タームが始まりしばらくすると、2・3年生にとって大きな出来事となる所属セミナー選びが始まります。この記事では、知っているようで実はあまり知らないセミナーの内側を紹介する企画の第2弾をお届けします。
連載第2回目となる今回は、学芸学部 国際関係学科 網谷龍介先生と英語英文学科 小野創先生のセミナーを訪問し、お話を伺いました。
国際関係学科 4年セミナー 網谷龍介先生
『比較政治』
セミナーの特長について教えてください。
網谷先生:国際関係学科は色んな科目があり、学生に多様な関心を持ってもらうことを学びの目的としています。例えば英語で指導して、英語で日本社会の問題について論じるセミナーや、あるいはアメリカ政治を中心に扱うセミナーなど。テーマがはっきりしたセミナーがたくさんある中で、既存のゼミでは拾えない 、政治・政策・制度といった社会の仕組みから問題解決の手段を探すという切り口でやっています。 なので、テーマは何でも良いです 。ある意味“国際っぽくない ”セミナーですね(笑)。
どんな学生に学んでもらいたい、というのはありますか。
網谷先生:特にありません。何か学びたいことを自分で見つけて、社会で起こっている問題について「どうしてこうなったのか」という理由を考えてほしい。広い社会に対してある特定の政策・制度が、どのように説得力があり価値を持つのか、を学んでほしいですね。
次に、セミナーに所属している長根さん、大竹さんにもお話を伺いました。
お2人はなぜこのセミナーを選んだのですか。
長根さん:自分がやってみたいテーマが日本の地方政策でした。そこから日本と地方、と考えた時に他のセミナーでは当てはまるところがなく、“政策”でとらえられる先生のセミナーにしました。
大竹さん:観光、ヨーロッパ、特にイギリスをベースに学びたかったのですが、国際関係学科の先生でイギリスを扱っていらっしゃる先生が少ないので“政策”という観点から見てみよう、とそこから決まりました。
実際に2年間 学んでみて、どのような点が面白いと感じましたか。
大竹さん:このセミナーには教育、貧困、保険、ポピュリズム、農業……色んなテーマ の学生が集まっていて、政策・政治に絡んではいるけれど、それぞれアプローチの仕方が違う。自分が元々関心を持っていたこと以外にも幅広く他のメンバーから話を聞けるところです。
このセミナーの魅力は何でしょうか。
長根さん:先生は「絶対やらなきゃいけない」という課題を定期的にバンバン出すわけじゃない。かといって放任というわけでもなくて「皆どういう調子ですか」と促してくれる。あくまで主導権は私たち。でも悶々としている時には的確なヒントをくださるところですかね。
活発な議論が行われていました。
英語英文学科 3年セミナー英語学コース 小野 創 先生
『心理言語学』
小野 創先生の主な研究領域は心理言語学(人がことばを話す・聞く・書く・読む・学ぶ際に私たちの頭の中ではどのようなことが起きているのか、その仕組みを研究する分野)。そして、今回訪問したセミナーは「子どもや大人の言語処理」がメインテーマです。
セミナーの進め方を教えてください。
小野先生:第1タームの期間は心理言語学の基礎についての講義を受け、研究論文をもとに知識を深めます。第3ターム以後はグループワークを行います。複数人でチームを組んで同じ論文を読み、不確かなところを学生の手で再実験していきます。この作業を自ら行うことで、実験の難しさや論文を読んでいるだけでは気づかなかった事項も徐々に見えてきます。また、実験データを分析する際に使用する統計手法についても講義内で解説します。英語英文学科だから統計学は必要ない、とは考えず、大学を卒業して働き始めるときのことも見据えた指導を行っています。
次に、セミナーに所属している学生の田中さん、山本さんにもお話を伺いました。
このセミナーを選んだ理由は?
田中さん:高校生の頃から漠然と心理学に興味がありましたが、津田塾大学のオープンキャンパスで模擬授業を受講し、英語学にも興味が出てきました。その中で私には心理言語学が最も魅力的だったため、このセミナーを選びました。
山本さん:セミナー紹介の際に配布されたパンフレットの記述が決め手になりました。わかりやすい文章とわかりにくい文章の違いを学ぶ、と書かれていて、私たちが日常で使う表現や文章の分かりにくさはどこから生まれるのか、そしてコミュニケーションをより円滑に行うにはどうするべきかを学びたいと思いました。
このセミナーを受けて興味深い点は?
田中さん:この授業では英語で書かれた先行研究の論文の問題点を検討し、それを踏まえて学生が実験を行います。今までは、研究者によって書かれた論文は完璧で絶対的なものだと考えていました。しかし、論文にも足りない部分があると学んだことは大きかったですね。授業を通じて、論文をより懐疑的に、具体的に見る姿勢を身につけられたと感じています。クリティカルシンキングの重要さについて知ることができました。
山本さん:論文の実験を、自分たちで条件を見直してやり直すことができる点が面白いですね。他の授業との差異としては、グループワークに重きを置いている点にあると思います。実験を成功させるためにこれまで交流のなかった他の学生と協力し合うことは難しかったです。
田中さん:グループワークで行った実験を基にして書くレポートはかなりタフでしたが、それに臨む中で友情は深まっていきましたね。
このセミナーを一言で表すと?
田中さん:「考え抜く」。実験の経過をしっかり追い、論理的に情報を処理することが最重要であると感じました。漠然としか理解していないことは全く論理的に書けなかったんですね。その経験から、今取り扱っているデータは何を表しているのか、それを立ち止まって考えて見つめ直すことをこのセミナーで学んだように思います。
山本さん:「丁寧」。小野先生の授業進行は他の授業と比べても群を抜いて丁寧です。ただ、授業の際に配られるハンドアウトも丁寧である代わりに、学生にもそれ相応の丁寧さが求められているように感じます。レポートのレイアウト構成、実験の方法・目的に関する記述も自身の理解をもとに、相手へのわかりやすさを第一に考えます。なぜ大学で学ぶのか、その意義を再考する良い機会になっていますね。
求める学生像は?
小野先生:このセミナーでは、実際に自分が「研究者」となって実験に取り組むことで論文から学んだことを追体験し、学びを得ることができます。このセミナーを受講することで学生の中に論文の読み方に対する変化や気づきを与えられたら、と考えています。学生には大学の授業で提供する知識を自身の学びや思考という体験に落とし込める人になってほしいですね。そして、「一生懸命考えるからこそやってくる瞬間」を楽しんでほしい。それにはどれだけたくさん考えるか、授業に真剣に取り組むかがやはり大切になってくるように思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。この記事を読んで興味を持った分野がある学生は、ぜひ一度先生に話を伺いに行ってみてはいかがでしょうか。取材中には、セミナーに興味のある内容がないと悩んでいる学生に向けて、先輩から「日常の中にきっかけを探して行くことがお勧め」とのアドバイスも飛び出しました。より細分化され深まっていく知の探求をぜひ楽しんでいきたいですね。津田塾大学での学問への扉はあなたが思っているよりも大きく、そして広く開かれていることと思います。