先生、あの話をしてください
本と私 大島美穂先生
大学生になって数ヶ月が経った今、趣味の読書をおろそかにしていることに気づきました。時間はあるのですが、本を読むことが久々のあまりなかなか手を出しづらい。他にもそんな学生は多いのではないでしょうか。本を読みたいけど読めていない、そのような人のきっかけになればと思い、総合政策学科の1年セミナーでお世話になっている大島美穂先生にお話を伺いました。
自分と今の社会をつなげる本たち
—どのような本を読みますか?
専門外についてでしたら、基本的にどんな本でも読みます。ただ、そうした一般書でも、専門が北欧なので、北欧の警察小説や推理小説は努めて読むようにしています。例えば、実話がモチーフとなったアンデシュ・ルースルンド『熊と踊れ』やユッシ・エーズラ・オールセンの特捜部Qシリーズ、ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト『モールス』は吸血鬼の話ですが、郊外団地の社会的様相が子どもの視点も含めて描かれており、社会派小説だと個人的には思っています。北欧のミステリーや事件は、政治に大きく関わったり、女性の生き方や移民、地域格差など社会問題が丁寧に描かれていたりすることも多いので、その分緊迫感も大きいです。また、女性や少数者の視点もなおざりにはなっておらず、差別されながらも自分の筋を通す様子が見えるところも好きです。
また北欧の本といえば、私の著書である『ノルウェーを知るための60章』もありますね。
—先生が書かれたのですね。
そうですね。この『ノルウェーを知るための60章』はノルウェーの環境政策をテーマに執筆しました。書いていて楽しかったですし、この本をきっかけに、ノルウェーに関する取材やお話が来るようになりました。
過去を知る
当たり前ですが、自分の仕事として、国際政治に関する本も読みます。特に学生さんに薦めたいのは岡義武先生の『国際政治史』です。世界史を学ぶ時って、その国の歴史ごとに学ぶと思います。ですが、そうすると時代や地域の関係がバラバラになってしまいがちですよね。
—わかります。その国の歴史はわかっても、それと並行して他国で起こっていることは曖昧なままでした。
でも大学に入学してすぐにこの本を読んで、バラバラだった世界が繋がったような感じがしました。点が線になって、世界を把握できた気持ちですね。また、世界の発展の様子も窺えて、先駆的な国際政治の本だと思います。こうした歴史本を勉強のためだけに使うのではなく、純粋に楽しみながら世界を知るためにも使ってほしいです。
本と私
—最後に、学生に本を読む楽しさ、大切さを伝えてください。
そうですね。私にとってはですが、本は自分がいる世界と全く異なる世界に触れる手段だと思います。知っていること、わかることが少なく、登場人物の気持ちにはなれないと思うかもしれませんが、世界においてそもそも自分が経験できることはそう多くなく、むしろほとんど経験できないことばかりです。その中で本を通せば、その立場になった時の考え方や心理がわかっていく、エンパシー(共感力)を得られるきっかけになります。そうして自分の中にいくつかの世界ができていって、それが自分を広げてくれたり、楽しませてくれたりします。学生たちにもこの気持ちを味わってほしいですね。そして、このエンパシーこそ自分と異なる時間や場所にいる研究対象への理解につながり、大学での学びに資するものだと思います。
今回登場した本
- アンデシュ・ルースランド『熊と踊れ』上下 ハヤカワ・ミステリ文庫,2016.
- ユッシ・エーズラ・オールスン『特捜部Q』シリーズ ハヤカワ・ミステリ文庫
- ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト『モールス』上下 ハヤカワ文庫NV,2009.
- 大島美穂・岡本健志編『ノルウェーを知るための60章』明石書店,2014.
- 岡義武『国際政治史』岩波書店, 2009.