先生、あの話をしてください

「総合」ってナニ?津田塾で30年以上続く「不思議な」授業

津田塾大学には、30年以上の伝統を持つ公開講座があります。その名も「総合」、毎年受講生は300名以上という大人気授業です。毎回の授業ごとにゲストスピーカーを大学外から招き、バラエティに富んだ講演が行われます。

公開講座「総合」 | 津田塾大学公式ウェブサイト

今回は、そんな「総合」のコーディネーター教員である英文学科の小野創先生と、学生スタッフの荒川美涼さんにお話を伺いました。その名前からはイメージが掴みにくい「総合」、どんな授業なのか知りたい人は必読です。




—まず、簡単に「総合」の概要を教えてください

小野先生:「総合」は、津田塾で30年以上続いている、とてもユニークな形態の授業です。この授業は、毎回外部から招いたゲストスピーカーが講演するのですが、どんな人にどんなテーマで講演をしてもらうかは、全てボランティアの学生スタッフが企画して決めるのです。おそらく、他の大学にはあまりないタイプの授業で、何回か新聞や雑誌でも取り上げられています。そして、「総合」は公開講座でもあり、大学外の一般の方も自由に参加することができます。

—なぜ一般の方にも公開されているのでしょうか?

小野先生:公開講座は地域の人と大学のとても良い接点になると思います。「総合」には毎回50人から、多いときは100人くらいの一般の方が講演を聞きに来られていますが、その多くが近所の小平とか国分寺の市民だという印象があります。「総合」のテーマは毎年変わり、ゲストスピーカーは学生が選んでくるわけですから、そこには学生の意思や主張を示すメッセージ性があらわれます。今、津田塾大学に来ている学生たちが、「この世界のどんなことに興味を持っているか」とか、「何が大事だと思っているか」とか、「自分たちが出ていこうとしている社会にどのように向き合っていくか」などといった問題に関して、自分たちの意思や主張を発信するとてもいい機会だと思うんです。だから、「津田塾大学の個性」を外に向かって示すという点で、公開講座であることは非常に意味があると思います。


荒川さんにお聞きします。学生スタッフはどのように講師を決めているのでしょうか?

荒川さん:毎年、学生スタッフ主体で、「年間テーマ」を決めます。例えば今年の年間テーマは、『じぶん打破〜事実を透かして見てみたら~』です。そしてそのテーマに沿って、「これだったらこんな人から、こんなアプローチで話を聞けたら、テーマに沿ったヒントが見つかるんじゃないか?」とか、そういう視点で考えます。後は、学生スタッフそれぞれが、自分の興味がある分野について普段からリサーチして、そこから人を呼んだりもします。
また、同じ分野で活躍している人を複数呼ぶこともあります。そんな時は、この人にはこういうアプローチで話をして欲しい、とか、この人からはこういう面について聞きたいとか、そういう風にお願いしています。そうすると、分野が同じであっても、バラエティのある内容の話が聞けたりします。


 「総合」スタッフにはどうやってなるのでしょうか?

荒川さん:スタッフは有志のボランティアで、学生が自分から志願しています。1年生からずっと継続してやっている人もいるし、「総合」の授業を受けてから「私もスタッフやってみたい」って思って入ってくる人もいます。スタッフになる理由は様々で、学年もバラバラです。上下関係みたいなものがなくて、1年生から3年生までみんな同じ立場でやれるのがいいところかな、と思います。

 —「総合」の授業を受けたくなるような情報はありますか?

小野先生:「総合」では、普段は自分のアンテナに全く引っかからないような人が来て話をすることがあります。で、その人の話を聞いているうちに、最初は全然自分と関係ないような気がしてたんだけど、だんだん自分の今までの経験とか、今の生活とかを振り返ったりして、共感できることがあります。そういう時って、すごく「おお!」って思うんですよ。話の中で知識を教えてくれて、「ああそういうことなんですね」って終わるんじゃない。人の話を聞いているんだけども、自分は今までどういう風な考えで生きてきたんだろう、とか、どういう体験をしてきたんだろう、とか、その体験は自分にどういう意味があったのか、とか、頭の中では自分のことがぐるぐる回る感じ。そういうのが、僕は一番印象に残っています。なんか、「歩いてる時の景色が変わる」感じです。

 —この授業はどうして「総合」という名前なのでしょうか?

小野先生:英語名称は、「Synthesis」だったんです(現在はInterdisciplinary Study of Contemporary Problems)。これは「合成する」っていう意味で、「何かを紡ぎだす」っていうのがテーマとしてあるんだと思います。1年間を通して、色々なジャンルの講師の方が講演してくれるんだけど、でもやっぱり共通点はあって、そこから何かが紡ぎ出されていく。

荒川さん:授業の課題で、「総合マップ」を作ります。これは、学生それぞれが、各回の講演で自分の印象に残ったキーセンテンスを書き留めておいて、それらを1枚の紙(A1サイズ、大きい!)に分かりやすくまとめるものです。総合マップを作っていると気付くのは、「全然ジャンルの違う講師の人たちが、実は似ていることを言っている」ということなんです。

小野先生:あのマップは、一見すると無理難題のような気がします。「こんな色んな人の言うこと、1枚にまとまらない!」って。でも実際やってみると、ちゃんと筋が通った1枚のマップが作れるんですね。いろんな世界の出来事について一生懸命やってる人たちって、やっぱり何か共通点があるんだと思います。

「総合」マップ展の様子

—最後に、お二人から津田塾生にメッセージをお願いします!

小野先生:「総合」って、やっぱり普通の講義とは違う不思議な授業だと思うんですよ。どの学年の人も、今の自分が持っている知識や趣味、目標などに合わせて、自分でじっくり考える時間を持つことができるんです。そうして色んな講演を聞くことを通して、自分でそこから『私はこういうストーリーを紡ぎ出した』っていうことができる。それってやってみるまでは分からないんです。最初から設定された到達点がある授業ではない。でも、だからこそ、自分の頭の中とか、自分が持っている感情とか、心の中を探っていく機会があって、それをやることで自分でも気付いてなかった『私、こんなのにウキウキワクワクするんだ』とか、『私こんなこと考えてたんだ』とかを発見することもあると思うんです。講師の方の体験とか、その人が何をしてきたのかっていう記憶を見ることで、自分の中の思考を新たな視点で紡ぎ出すっていう体験ができる。それを体験することで、自分の日常がちょっとずつ変わっていくと思うんです。同じ通学路、いつも乗ってる電車なんだけど、ちょっと見え方が変わったりとか。同じ出来事をニュースで聞いたんだけど、感じ方が変わったりとか。そういう風にちょっとずつ日常が変わってくっていうのを、「総合」を通して体験してもらいたいな、と思います。

荒川さん:「総合」は、何か「正解」があるよ、という内容ではありません。参加者一人一人が印象に残るところはそれぞれ違って、それを一人一人が見つけられればいいなと思っています。みんなが同じ答えに行き着くのが目標ではなくて、それぞれの人が何かヒントを見つける、ということがしたいです。私自身も、スタッフとしてそういう講演を作る、という活動から何かを発見して、そこから今までと違う考え方ができるようになればいいな、と思っています。