津田塾探訪

津田塾探訪 #13 ‐ 「つだぬき」と小平キャンパス

小平キャンパス内のセンサーカメラに写っていたのは......?

四季折々の表情が美しい、自然豊かな小平キャンパス。実は、このキャンパス、私たち学生だけでなく、ある動物にも愛され、その住みかとなっていることを知っていますか?パソコンの画面に映し出されているのは、キャンパス内に設置したセンサーカメラから取り出したデータです。そこに写っていた動物は……「タヌキ」です!もしかしたら偶然見たことがある人もいるかもしれませんね。

今回は、小平キャンパスに住むタヌキを研究されている高槻成紀先生(麻布大学いのちの博物館 上席学芸員)にお話を伺いました。また、実際に調査で使用しているセンサーカメラや、タヌキの貴重なタメフン場の様子も併せてご紹介します。
 

タヌキについて説明する高槻先生。

タヌキに優しい小平キャンパス


—なぜ小平キャンパスにタヌキが住むようになったのでしょうか?

「この地域に雑木林と畑が今よりも広がっていた頃は、面的にタヌキがいました。しかし、それが狭まってきて、今は玉川上水と、そこに連なる保存緑地に住んでいるだけ。ここは、その緑地の一つなんです。また、大学の周りには、コナラやクヌギといった落葉樹が生えていますが、ここにはシラカシやヒノキなどの常緑樹があります。一年中、葉が生い茂っていて暗いので、タヌキの隠れ家として絶好の場所ですし、食べ物も十分にあるんですね。本来、その木々は季節風による砂ぼこり防止のために植えられたそうですが、結果としては100年ものの立派な林が育って、こうしてタヌキが住めるまでになったんです。」

1931年の小平キャンパス。周囲は一面の畑で、他に殆ど何もないことが分かる。

 (画像はいずれも津田塾大学デジタルアーカイブより。)

1931年のハーツホンホール。まだ木々が少なく、やや寂しい印象。

「それから、津田塾大は、規模拡大をしていない数少ない大学の一つなんです。多くの大学は、土地を確保し、学生数を増やして、経営拡大をはかっていますよね。林を切って建物を作っては、自然を破壊し、残された自然を食い物にしています。でも、ここはそれをしない。環境の質を維持するという、しっかりした方針があるからだと思います。これは、当たり前のようで当たり前じゃないことですよ。だから、何でもないようで、このキャンパスが維持されているということは、かなりのこと。そして、その素晴らしさを象徴的に示しているのが、タヌキの存在だと思います。」


—こちらで調査を行うことになったきっかけを教えて下さい。

「私は、玉川上水の生きものを中心に調査しているんですが、その中で、タヌキがいるかどうかを調べたことがありました。動物の動きに反応するセンサーカメラを置いてみたところ、ポツポツといることが分かったんです。そこで、上水のすぐ近くにあって、素晴らしい緑が備わっている津田塾を、タヌキが利用しないわけがない!と思いました。これがきっかけです。調査に理解のある津田塾大学国際関係学科のクリス・バージェス先生を通じて管理課にお願いし、カメラの前にビスケットやソーセージなどの餌を置いておきました。すると、置いた日の夜に、既にカメラに写っていたので驚きました。それからは、タメフン場(注1)を探し、マーカ—調査(注2)をして……といった手順で研究が進んでいます。フンを水洗し、ふるいにかけて、出てきた食べ物の分析も行っています。夜行性のタヌキを直接見るのは難しいので、フンを通じて情報を得るんです。」

(注1)タヌキは決まったところにフンをする習性があり、それをタメフン場と呼びます。優れた嗅覚を持つタヌキは、この場所を通じて仲間とコミュニケーションをとるそうです。
(注2)餌にプラスチック製の色番号付きマーカー片を入れて、決まった場所に置きます。タメフン場でフンを回収してマーカーが見つかると、行動範囲が明らかになります。

調査用のセンサーカメラ。現在、キャンパス内に2箇所設置されています。

先生の見つめる先にあるのが、タメフン場。

フンの分解に大活躍している「コブマルエンマコガネ」。 タヌキによって生かされているいのちの一つ。

「また、私はただ『タヌキがいる』だけじゃなくて、『タヌキがいるということには、どういう意味があるんだろう?』ということを考えて調べています。それによって生かされている糞虫がいるし、ムクノキやエノキのように種子を運ばれる植物があるわけですからね。そういう生きもののつながりを示したいと思っています。それは、よくある調査報告書のように、○○がいるというリスト作りで終わらせず、もう少し突っ込んだことを調べたいからです。」


タヌキから学ぶ


—この調査は、2016年の春に始めたばかりとのことですが、1年の間にも様々なイベントがあったそうです。

「子どもを集めて観察会をやったことがあります。実際の調査と同じように、タメフン場に行ったり、実際にフンを水洗しました。今の学校の授業では、出来合いのキットを使った簡単な実験や、ただ知識を教わることが優先されていますよね。だから、この時は子どもの目がすごく輝いていました。『本当にここにタヌキがいるんだ!』って。フンって、大人は不潔だとか汚いとか言うけど、子どもはそうでもないんですよね。むしろ好きですよね、男の子なんかは(笑)。」

「子どもの食べ物に対する認識の違いもおもしろかったです。フンから出てきた食べ物の分析をした時、ビニール袋のようなゴミに近いものが出てきたんです。それが、彼らにとってショックだったみたいです。なぜかっていうと、小学校中学年くらいになれば、野菜が畑で作られていることは知っていますよね。だから、スーパーにあるものも、どこかで作られたものだと考えることができるはず。でも、畑で育てられたトマトやジャガイモとか、海で獲ってきた魚とか、そういうものだと思っているわけです。食べ物というのは皿に並べられたキレイなものなんだ、と。だから、タヌキが、汚くてごみが捨ててあるようなところのものを食べているということに驚いたようです。だけど、タヌキにしてみたら、たんぱく質のにおいがするものは食べ物ですから、みじめ感とか、俺はこんなものを食べなきゃいけないなんてとは思ってないわけで(笑)。そういうわけで、私自身も色んな体験ができた観察会でしたね。」 

「また、3月の下旬には英国の放送局BBCの取材を受けました。タヌキは東アジアの固有種なので、世界的には珍しいんですよ。しかも、人がいっぱい住んでいる住宅地の小さな緑の中に住んでいるということで、取材班の人たちは大変よろこんでいました。」

BBC公式ホームページ内の番組紹介ページはこちら
番組内では高槻先生とBBCのChris Packham氏が、裏門付近で調査用カメラの映像を確認したり、5号館前でフンの水洗をしたりする様子が紹介されました。
 

カメラに写ったタヌキ。フンをしているところ。

—最後に、高槻先生から津田塾生へメッセージを頂きました。
 

「学生の皆さんは、このキャンパスにいる間は教室と教室との行き来で、ここにタヌキがいるという意識はないと思います。知らない人が多いのも、当たり前のこと。だけど、都心の大学では絶対にないことですよね。 実際にタヌキを見たり、タメフンを観察したりしなくてもいいけれど、ここにタヌキがいるんだ、と思うだけでも、かなり違うはずです。いろんな動物が絶滅して、いなくなってしまっている現代だからこそ、野生動物であるタヌキがここにいて、ほぼ数十メートルくらいのところで毎日ニアミスをしているってすごいことです。こう考えることで、人間以外の生きものの立場になって考えるような目線を持って、それを大事にしていってほしいなと思います。」

 

高槻先生には、センサーカメラ設置場所にほど近いグラウンド脇でお話を伺いました。