つだラボ

plum garden編集部員のオススメ本紹介&オリジナルPOP作り 後編

plum garden編集部員のオススメ本紹介&オリジナルPOP作り 後編

部員オススメ本紹介の後編です。各々が持参した本について、さらに深い話が続きます。ぜひ楽しんでください。
※この記事は本のネタバレを含みます。

その本をひとことで表すと何ですか?どうしてその言葉を選んだのですか?

ちはる『赤×ピンク』:私はこの本をひとことで表すと「変化」だと思いました。本の中では3人の女の子にスポットライトが当てられるのですが、その3人全員に何かしらの「変化」が起こるからです。彼女たちはその「変化」に悩んだり、それを克服したりすることで成長していきます。3人に共通したトピックだったので、ひとことで表すと「変化」になるのかなと思いました。

滝澤『思わず考えちゃう』
:私は「発見」かなと思いました。この本を読んでみて、普段だったら気に留めないけれど、「確かに自分だったら無意識にこうしているな」という「発見」が何か所もあったからです。皆さんが共感できるお話があったので共有させてもらいますね。例えばトイレの扉を思い浮かべてください。手を洗った後、トイレのドアノブのどこが最も汚くないのか無意識に選んで開けたりしませんか?この本は、これまで気にしたことがなかったけれど「無意識に選んでいる」という発見が得られる本だと思います。

ちはる:言われてみたら確かにそうかも。無意識に選んでいるかも(笑)。トイレのドアノブがレバーを下にさげる形状のものだったら、手をグーにして、その握り拳でレバーを下げてからドアを押してる!

村上『四畳半タイムマシンブルース』
:私はこの本をひとことで表すと「青春」だなと思いました。世間から、大人と同じように見なされる大学生たちが、大人にとってはたわいもない、壊れたリモコンへの処置に対し、たくさんの人を巻き込んで解決策を真剣に考えている姿はすごく「青春」しているなと感じました。また先ほど話した裏話*1に関連して、主人公が、好きな人の言動に一喜一憂している姿も初々しく「青春」を感じました。

*1 オススメ本紹介前編記事「本のあらすじ」で触れた、主人公と想い人の恋模様

中村『薬指の標本』:この本をひとことで表すと「夢現」だと思いました。夢現という言葉を調べると「夢と現実。または夢と現実の境がはっきりしない様。」という言葉が出てきます。この小説を読んでいるときの夢の中のような感覚や、読み終わって一息ついたときに感じる「今、夢から覚めたのかな」という不思議な体験を言葉で表すと、「夢現」になるのかなと思いました。自身の体験した、夢なのか現実なのかよく分からない「ふわっ」とした感覚がとにかく印象的でしたね。



読む前と後で本に対する印象は変わりましたか?変わった場合、どのような変化がありましたか?

ちはる『赤×ピンク』:私は変わりました。本を手に取って中を見たとき、目次や裏表紙にはかなりおどろおどろしい言葉が並んでいたんです。だから本を読む前は、裏世界的な物語が展開されるのかなと思っていました。公にはできないような、暗いお話なのかなと考えていたんです。ただ読んでみると、物語が展開される舞台は、女の子の格闘技だったり、非合法的だったり、確かに普段の日常から切り離されたものだったけれど、物語の本質は女の子の気持ちの変化や成長にあったのかなと考えさせられました。小説に出てくる言葉のインパクトが強いので、人によってはネガティブなイメージをもつ人もいると思います。しかし読む前にネガティブなイメージをもっていた人ほど読み終わった後の印象は変わるような気がしますね。

滝澤『思わず考えちゃう』
:本に対する印象の変化はなかったけれど、作者であるヨシタケさんに対する印象の変化はありました。もともと絵本を読んでいたときからユニークな視点をもっている方だなと感じていましたが、そのユニークさが自分の想像していたものよりもかなり深く、ヨシタケさんのことが今まで以上に好きになりました。

村上『四畳半タイムマシンブルース』
:私はあらすじに対する印象が変わりました。この本を買った時についていた帯には、「史上最も迂闊な時間旅行者(タイムトラベラー)たちが繰り広げる冒険喜劇(コメディ)。宇宙のみなさま、ごめんなさい……」と書いてありました。私は以前、森見さんの別の作品(『夜は短し歩けよ乙女』)を読んだことがあるのですが、その作品もテンポの良い印象だったので、今回も初めから終わりまで一気に駆け抜けるような作風なのかなと思っていたんですよね。しかし今回は物語がどんどん進むだけじゃなく、秋の夕暮れの空のように、うっとりとした気持ちになれるシーンや恋物語がありました。そして全て読み切ったあとは、特にうっとりとしたところに注目してもう一度読んでみたくなる作品です。

中村:いろんな楽しみ方が出来るのはいいですね。コメディ要素だけを抽出してもきっと面白いだろうし、村上さんが仰っていたように甘酸っぱいトキメキだけに注目したとしても、それはそれで心動かされる展開があるんだろうなと思いました。すごく読みたい!

中村『薬指の標本』
:先程の滝澤さんのお話を聞いて、作者の方に焦点を当てるのもいいなと思ったので、その点も踏まえてお話しします。まず、数学には作図可能性と呼ばれる問題があるんですよね。「定規とコンパスだけで、正多角形を作図できるか?」というものなんですけど。私は数学科に所属しているので、「六角形」*2の文字を目にしたとき、そのような数学的な視点から、「一体どんなお話なんだろう?」とわくわくしました。本を読む前、「作者の小川洋子さんは『博士の愛した数式』という本を書かれているし、本の表題には“六角形”の文字があるし……」ということで、今回も数学っぽい物語が展開されるのかなと思っていたんです。でも実際は全然違いました。今回オススメする作品に数学的な議論は全くなかったんですよね。なので、本を読んだ後は、第一印象との違いに驚いていました。また、私は以前から小川さんが描く文体の柔らかさや温かさが好きで彼女の別作品を読んでいたんです。でも、今回オススメする作品はそういった彼女の作風に加えて、どこか心に静けさをもたらす感覚を与えてくれる作品だと思いました。小川さんの本の中でも、この作品は少し異質な感じがしたんですよね。彼女の作品を全て読んでいるわけではないので、確かなことはわからないけれど、今まで小川さんが書いてきた作品からは少し離れたところにある物語だと思いました。だから、タイトルと想像していた内容の間で生まれた差に関してだけでなく、小川洋子さんの作品という点でも印象の変化がありましたね。

*2 今回の対談で中村さんが焦点を当てている『六角形の小部屋』の表題に含まれる「六角形」の文字

その本の見どころを教えてください

ちはる『赤×ピンク』:私は女の子たちが闘っている場面を選びました。格闘技をやっている女の子たちの話なので、やはり見どころはその場面かなと思っています。彼女たちにとって格闘技は、生きるための依代のようなものです。そして格闘技が生きるための「支え」となっている分、女の子たちは非合法であっても格闘技にきちんと向き合っているように書かれていました。非合法の競技という点には賛同できませんが、何かに真剣に向き合っている女の子たちの姿にかっこいいなと心を動かされました。それに、競技の場面になると女の子たちは生き生きするんです。その様子が普段の彼女たちからは想像できない姿なので、見どころかなと思っています。あと、この物語は真面目な描写も多いのですが、たまに「ふふっ」と笑えるシーンも出てくるので、その緩急にも注目してほしいですね。

滝澤『思わず考えちゃう』:ヨシタケさんご自身にもお子さんがいらっしゃることから、この本の中では身の回りに関係することだけでなく、父目線で子どもについてを語る場面もあります。そして私はその部分が見どころなのではないかと思いました。私はまだ子育ての経験がないので、「共感できる」という気持ちよりも「子どもって可愛いな」という感じの方が強かったです。「子ども」について個人的に印象的だったシーンがあります。それは、ヨシタケさんが飲食店で会計を済まそうと列に並んでいた時、前に並んでいた家族のお子さんが店員から飴をもらって嬉しそうにしていたシーンです。その時の様子を表したイラストもすごく可愛いから見てほしいです。

(他メンバー、イラストを見てテンションが上がる)

ヨシタケさんは「飴ひとつでこんなにも幸せそうな表情をつくる’子ども’は素敵だな」ということを書いていて、その言葉にとても共感できました。大人になると、お金をかけて喜べることはあるけれど、飴ひとつではあまり喜べなくなってしまう。でも、小さい子はたったひとつのお菓子で、満面の笑みを浮かべるほど幸せになれる。そういうことに気づける視点は素晴らしいなと思いました。また同時にそういった視点は大人になると薄れていくことにも気づかされましたね。

村上『四畳半タイムマシンブルース』
:この本の見どころは、やはりクライマックスのところかなと思います。先程、タイムトラベラーと恋する男子学生という2つの視点で物語が進んでいくとお話ししたと思うのですが、物語の終わりでは、そのそれぞれが綺麗にまとまっていてとてもスッキリします。個人的にすごく気に入っている終わり方ですね。私が最も共感したのはこの本の最後の一文で、これを言ってしまうとネタバレになってしまうので口には出しませんが(笑)、主人公の気持ちが最も表れている台詞だと思います。夏の終わりをもの悲しいと思うように、この物語の先を知ることができない私たちに少しばかり、淋しさを残す結末は美しいなと感じました。先日映画*3を見に行ったときは、素敵な文章がそのまま絵になったように思えて感無量でした。

この本に登場するキャラクターは、それぞれが魅力的な個性をもっています。そんな彼らを応援したくなるような結末はたまらなく素敵ですね。そういった理由から、一番の見どころは終わりの部分かなと思っています。

*3 2022年9月に映画化された『四畳半タイムマシンブルース』

中村『薬指の標本』
:この本の見どころとして、ぱっと思いついたものは二つです。一つは主人公の「私」がミドリさんのことを気になって仕方なくなり、彼女の後をついて行く場面。主人公の「私」は、偶然スポーツクラブの更衣室でミドリさんと出会い、不思議と彼女に惹かれてついて行ってしまうんです。そして、そんな「私」がミドリさんを追っている道すがら、夢か現実かも分からないような景色が流れていきます。その景色の移り変わりが、本当に夢なのか現実なのか区別をつけるのが難しく感じる特徴的な描写なので、是非注目して読んでいただきたいと思います。そしてもう一つはラストの場面。終わり方についてはあまり言及したくないのですが(笑)、えも言われぬ雰囲気があり、なんとも形容し難い気持ちを残す結末でした。言語化できないのが非常にもどかしいのですが、このもどかしさは読んだら絶対に共感していただけるので、ぜひ手に取ってみて欲しいです。いつでもお貸ししますので、大学で私を見かけたらお気軽にお声がけください!

本を読んで考えたことや自分なりの解釈を教えてください

中村『薬指の標本』:「ミドリさんのことが気になる」という感情をもつことがカタリコベヤに辿りつくことのできる条件なのかなと思いました。ミドリさんは淡白で、他のご婦人方とは違う雰囲気を纏っています。彼女がそこからいなくなったとして、「それに気づける人はいるのかな?」と思うほどの人物なんです。そんな彼女の不思議な存在感はまさにカタリコベヤのイメージと合致します。彼女の存在に気づく人というのはどこか心の中に引っ掛かる部分があるとか、敏感になっている人なのかなと思いました。また主人公の「私」はすごく大きな悩みを抱えているのですが、それは誰かにアドバイスをもらうことですぐに解決できるようなものではなくて。そんな「私」がカタリコベヤを利用するのは、「意見を押しつけずに、ただ耳を傾けてくれて、確かにそこに居る人」の存在を求めていたからかもしれないなと思いました。

村上『四畳半タイムマシンブルース』
:この本は「時空移動(タイムトラベル)」が一つのテーマです。時空移動って、過去に戻り未来を変えようとしても、今が存在している以上、過去から見た未来は決まっていることになりますよね。その事実に基づいて、本の中ではこんな言及がされています。「自分の人生は1冊の本みたいなもので、最初から最後まであらすじがきちんと決まっている。ただそれを自分が見ていないだけなのではないか」というものです。だけど、この考えに100%共感することは難しい気がします。確かにそう考えることもできるけれど、もう一つの考えとして、自身が筆者となり、これからのあらすじを書いていく、自分の人生を作っていくという考え方もありますよね。これら2つの考え方は読者によって解釈が異なるため、そういった解釈の多様性を興味深く感じ、みんなの考えを聞いてみたいと思いました。どんどん進むストーリーの中にも一度立ち止まって真面目に考えさせられる言葉が散りばめられている点に惹かれましたし、これから自分の人生をどのように歩んでいこうかなと考える一つのきっかけにもなりましたね。



この記事を読んで、ご自身の紹介するオススメ本を読んでくれた読者さんには、どのような変化が起こると思いますか?あるいは起こして欲しいですか?

ちはる『赤×ピンク』:私は2人目に登場してきた女の子が特に印象に残っているんですけど、この女の子は他人に求められた理想像に自分を当てはめようとしていくうちに、本当の自分がわからなくなってしまった子なんです。でも、その女の子は自分の好きなもの(好みの格闘スタイル)を知ることで、自分が何者なのかを掴むという描写がされています。現実世界でも、自分を見失うほどではないけれど、他人の理想に合わせたいと頑張っている人は結構いるのではないかと思うんですね。例えば、仲良くしている子と話を合わせるために、それほど興味のない歌手の音楽を聴いたり、特定の「推し*」を作らなきゃと必死になっている子もいるのではないかと思います。無理に話を合わせようと振る舞っている間に本当に好きになれれば良いのですが、興味のないものを追い続けるということは意外と労力が必要で、気づかないうちに追い詰められている子も多いのではないでしょうか。そんな人たちには2番目の女の子みたいに、至って些細なこと、朝食べるのはご飯じゃなくてパンがいいといった自身の「好き」やこだわりに気づいて、本当の自分を見つけてください。そしていい意味で自分中心に生きられるようになってほしいと思っています。

*他の人に勧めたくなるくらい好感を持っている人物

滝澤『思わず考えちゃう』
:私がこの本を読んで感じた思いを皆さんと共有できたら嬉しいですね。普段だったら気に留めないようなことも、一度立ち止まって考えてみてください。自分は無意識下でこういうことを考えていたんだと気づくはずです。それは、思いがけないときに役立つかもしれません。こんな風に普段の生活の中で少し立ち止まって考えることはとてもいい結果をもたらすのではないかと思います。

村上『四畳半タイムマシンブルース』:私はどんな年代の人であっても、この本を読んだら、積極的に挑戦するようになると思います。先程もお話ししたのですが、大学生であるにも関わらず、「たわいもないこと」に熱中して頑張っている登場人物たちの姿勢には、何かしら私たちを感化させるものがあるのではないでしょうか。そしてその姿勢を見て、私たちは「身の回りで興味のあることはなんだろう」「今自分が好きなものを突き詰めてみようかな」と考えさせられたり、勇気をもらったりするのではないかと思います。読者の中には自己肯定感が高くない人もいるかもしれません。だけどこの本を読んで、同じように気弱な主人公「私」の行動力から少しでも勇気をもらえたらいいなと思います。また、この本の中にはいつでも元気いっぱいな世界が広がっています。もし落ち込んだときには読み返して、クスッと笑って欲しいです。この作品から勇気と元気を貰ってください!私もよかったら貸しますので(笑)。

中村『薬指の標本』:この本を読んだら、読者さんはまず六角形の小部屋を覗いてみたくなるのではないかと思いました。私もそうなりましたし、ホームセンターで売ってそうだなとも思ってしまいました(笑)。この物語に登場する「社宅管理事務所」という場所は、六角形の小部屋を必要とする人たちが集う場所です。事務所にはミドリさんと彼女の息子さんがいて、拒むわけでも歓迎するわけでもなく、「いつでも来ていいですよ」とただそこに居るだけ。でも、そういう場所ってあったらいいですよね。私が、読者の方に起こして欲しいと思った変化は、カタリコベヤのような場所を見つけていただくことです。それはどんな場所でもいいですし、むしろ場所ではなく人物であってもいいと思います。自分が何かモヤモヤを抱えてどうしようもなくなったときに、自分にとってのカタリコベヤを見つけて、自分の思いを吐露できるような空間をもっていただきたいです。そしてもう一つは、この本を読むおすすめの時間帯について。私はこの本を3時から5時くらいの真夜中にかけて読んだのですが、流石にそれを皆さんにお勧めするのは気が引けるのでしません(笑)。ですが、できれば夜、イメージとしては雨が降っている最中や雨上がりのような、そういうしっとりとした場面で、1人だけの静かな空間を選び、この本を読んでほしいです。

対談参加者からのメッセージ

中村『薬指の標本』:この本の魅力は、読んでいただかないと伝わりにくいのではないかと思います。皆さん、ほんとにいつでもいいのでお声がけください!是非読んでください!貸します!(笑)

村上:あっ、借ります!

ちはる:もう予約が(笑)。ゆくゆくは数年待ちになりそうだね。



 •   •   •


この記事で紹介している本は、plum gardenの読者の皆さんにオススメする本であり、部員が好きな本でもあります。対談参加者の中には、「この本を既に読んでいたら、絶対共感してもらえるのに」と、もどかしそうにしている部員もいました。
大学生が紹介する本ではありますが、違う年代の方にもぜひ読んでいただきたいです。私たちとはまた違った解釈が生まれることで、さらにこの記事が読みごたえのあるものとなるかもしれません。
部員には読書家が多く、前々から「本に関する記事が書きたいね」と話し合っていました。そして今回、一緒に記事を書いてくれる仲間が現れ、企画を実現することができたのです。
対談を実施したのは、ちょうど課題の多い時期でした。それにも関わらず、快く協力してくれた部員には、とても感謝しています。