津田塾探訪

津田塾探訪 #22 津田ホールのグランドピアノ

千駄ヶ谷キャンパス内にあり、2018年11月末に取り壊しが完了した津田ホール。当初は津田スクール・オブ・ビジネスの講堂として建築されましたが、その音響の良さから音楽ホールとしても多くの著名音楽家の舞台として使用されました。
津田ホールには2台のグランドピアノがありましたが、現在はそれぞれが国立音楽大学(東京都立川市)と桐朋学園大学(東京都調布市)に貸し出され、音楽家の育成に活用されています。

今回の津田塾探訪は、2台のピアノが2校に貸し出されることとなった経緯に迫ります。


多くの音楽家から愛された津田ホール

津田ホールは、世界的建築家で千駄ヶ谷キャンパスのアリス館の設計も担当された槙文彦氏により設計され、1988年に開場しました。その音響と環境の良さで、2000年には日本音響家協会による「優良ホール100選」に選出されています。また、毎日新聞社が主催する全日本学生音楽コンクールの東京大会も開催され、プロを目指す音楽家の「甲子園」として親しまれ、愛されていました。

2008年から4年間、千駄ヶ谷キャンパスに勤務していた、津田塾大学職員の斉藤治人さんに、当時の様子を伺いました。
 

「2008年11月から2012年5月まで千駄ヶ谷キャンパスで勤務していました。そこで、現在の津田塾大学オープンユニバーシティの前身の講座や津田ホールの運営を手伝っていました。

働きはじめて何よりも驚いたのは、ホールスタッフの方々のプロ意識の高さでした。公共のホールでは、施設は立派でも運営を外部に委託をしていて、利用者の立場に立った体制になっていないということが少なくありません。しかし津田ホールは、音響の良さもさることながら、働くスタッフ、技術者、そしてコンサートをコーディネートするディレクターのプロ意識がとても高かったのです。常に利用者、演奏家のことを考え、さらに津田ホールの運営に携わる人々は、『こういう音楽が津田ホールで奏でられる音楽なのだ』という共通した認識を持っており、それに向かってそれぞれ一生懸命に働いていました。これが津田ホールの最も素晴らしいところだったと思います。」

「大学としても英文学科のフレッシュマンキャンプを津田ホールで実施したり、主催、共催公演を年に数回開催するなど、大学に寄贈されてからも変わらずに運営を続けました。夏には毎日新聞社主催の全国学生音楽コンクール東京会場にも使用され、音楽家を夢見る多くの児童、生徒、学生が演奏をしました。演奏を終わった参加者に話を聞いたことがあったのですが、どのホールよりも自分の演奏している音がよく聞こえ、とても演奏しやすかったそうです。」

「ポスト3.11の道標をさがして—翻訳家と哲学者と詩人と音楽家の試み」における、ソプラノ歌手コロンえりか氏と大島ミチル氏による演奏

「ホールには特徴が異なるスタインウェイのグラウンドピアノが2台あって、開館以来大切に使われてきました。ピアノを永く使うには、定期的なメンテナンスが欠かせません。一部の部品交換だけでなく、全体をメンテナンスするオーバーホールも行い、維持に努めました。特に鍵盤に象牙が使われているモデルは、現在では製造が困難ということもあって、メンテナンスには細心の注意を払いました。」

「ホールは建物だけではその役割を果たしません。利用する人、適切な機材、運営をサポートする人があってこそ成り立ちます。特にホールに携わる人々気持ちが大切で、その気持ちが聴く人たち伝わっていたからこそ、多くの人々に愛されるホールになったのだと思います。」
 

2台のピアノの行方

津田ホールは、惜しまれつつも、2015年に閉館。2017年に取り壊しが始まりました。津田ホールにあった備品の多くは津田塾大学が引き取りましたが、2台のピアノは湿度と温度を常に一定に保たなければならないため管理が難しく、通常の大学の校舎では保管ができず、引き取ることはできませんでした。

2台は「最上のピアノ」と言われている、スタインウェイグランドピアノ。はじめは大切にしてくれる人の元にあればと、売却する話も持ち上がりましたが、「同窓会ゆかりの財団法人である津田塾会が寄贈してくださり、たくさんの音楽家に奏でられてきたピアノは、今後も若いピアニストの育成に使って欲しい。また、いつの日か場所ができれば引き取りたい」という髙橋裕子学長の意向もあり、貸し出されることになりました。

1台は、津田塾大学も加盟する大学協力機構「多摩アカデミックコンソーシアム(TAC)」に加盟している国立音楽大学に貸し出すことが決まりました。
 
 

国立音楽大学に貸し出されたピアノ

国立音楽大学では2018年9月、著名なジャズピアニストで同大学教授の小曽根真先生による、このピアノを使用したジャズピアノコンサートが開かれました。

もう1台は、鍵盤に象牙を使用している大変貴重なもので、管理が非常に難しく、なかなか引き取り手が見つかりませんでした。そんな中、総合政策学部の大島美穂先生の知人のつながりで、桐朋学園大学の学部長が引き取りたいと申し出てくださいました。ピアノを津田ホールから搬出しなければならない期限の一週間前のことでした。
 

桐朋学園大学では、木のぬくもりが感じられる333教室に置かれています

桐朋学園大学では「学生が音楽家になるためには、質の高い楽器でよい演奏をする経験が必要」ということで、専門家によるコンサートはもちろん、学生による小コンサートや大学入試の実技試験にもこのピアノを使用しているそうです。
 

生き続ける津田塾会の思い

ホールは閉館し、その跡地は大学が利用する広場となりましたが、2台のピアノは舞台を変えて現在も使用されています。同窓生たち、そして津田ホールに携わっていたスタッフたちの思いは引き継がれ、今も音楽を奏で続けています。



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