梅いち凛 ~咲いた津田塾生~

人と人をつなぐ面白さ−染谷紗恵子さん

津田塾の学生なら、学内で『チカウニ』という言葉を耳にしたこと、あるいは目にしたことはあるかもしれません。チカウニとは、 Chicas Unidas(チカスウニダス)の略称で、2004年に結成されたフェアトレード推進団体です。その活動目的は、南米ペルーのスラム街に住む女性たちの団体・ムヘレスウニダス(以下ムヘレス)が製作した衣料品等の商品を普及させ支援することです。津田塾祭や小平市のイベントで販売を行ったり、生協で製品を委託販売したりと、学内だけでなく外部でも活動をしています。
今回の「梅いち凛」では、国際協力に興味を持ち、現在チカウニの代表を務める国際関係学科の染谷紗恵子さんにお話を伺います。
実は染谷さんは、私が所属している少林寺拳法部の先輩でもあります。染谷さんはチカウニ代表だけでなく、少林寺拳法部、経済学研究会、十大学合同セミナーと幅広く活躍しているのです。今回のインタビューでは、染谷さんの行動力と広いキャパシティーをクローズアップしました。

 
 

ひょんなことから国際協力の道へ

「津田塾に入る前、もともとは服飾をはじめとする勉強をしたいと思っていたので生活科学系の学科を目指していました。そんなとき、高校三年生のときに現代社会の授業で、山口絵里子さんという女性を知りました。山口さんは、途上国から世界に通じるブランドを発信する、ソーシャルビジネス組織『マザーハウス』を起業した方です。それまで私は、服飾に対してハイソサエティーなイメージを持っていたのですが、まだ注目されていない途上国で商品を作っている人たちに光を当て、その話を消費者に伝える、という山口さんの考え方に惹かれて、国際協力にも興味を持ち始めました。」

- いままでのイメージとは異なる形での服飾への関わり方、そして国際協力に興味を持ち始めた染谷さん。津田塾への入学を機に、チカウニと出会いました。
 
「第一志望だった生活科学系の大学の入試は不合格でした。縁があって津田塾に入学が決まって、そこで『Chicas Unidas』という服飾と国際協力の両方に関連する団体を見つけて、これだ!と思って入りました。当時第一志望の大学に落ちたことはショックでしたが、いま思えば国際協力を学ぶには津田塾の国際関係学科はぴったりですし、チカウニにも出会えたのでよかったです。」
 

チカウニでの活動、ペルー訪問

「国際協力のサークルなので幅広い地域での活動を想像していたのですが、実際の活動は地元密着型で、小平市のイベントをメインにしていて、最初はそのことに驚きました。小平市だけじゃなくてもっと都会のイベントに参加すればいいのに、と思いました。でも、二年生になって、私が小平市の人との連絡をとるようになり、地域の人たちと話す機会が増えてからは、ローカルな人と人とのつながりの重要性を感じるようになりました。国際協力というとすごく広い領域で考えがちですが、そうではなくて、小さな地域にポイントを絞った活動も、つながりが密になって魅力的だなと。イベントの際もイベントに来たついでに気軽にブースに来て話しかけてくれる人もいて、商品を買わなくても話を聞いてくれる機会があります。それがローカルな地域で活動する強みです。」

 「チカウニで扱っているペルーの商品は、生地が特徴的だったりして日本にすぐになじむものではないので、販売がうまくいかないこともあります。そういうときは参加するイベントの見直しはもちろん、商品の見直しもします。例えば、白と黒のトートバックを売るときに、年齢層が高めの小平市のイベントでは、白だと汚れが目立つという理由で黒の方が人気です。そういった意見やチカウニのメンバーで話し合った意見をムヘレスの人に伝えています。年に一度、ムヘレスとチカウニを繋げている日本人女性と商品会議も行っています。」

ペルー名物、アルパカと記念撮影する染谷さん

- チカウニでは数年に一度、有志で現地の状況を見る・知るためにペルーへ赴き、ムヘレスを訪問します。染谷さんも一年生の春休みに初めてペルーを訪れました。

「最初にペルーの首都リマに着きました。ショッピングモールや有名ブランドのお店もあって、思っていたよりも日本の都会とあまり変わらない印象を受けました。驚いたのは、二日目にムヘレスのいるカラバイヨへ行ったときです。首都の栄えているところから車で一時間ほど行っただけで、それまではホテルやビルが並ぶ観光地だったのが土っぽい雰囲気になって、屋根のない家もありました。屋根を作るのにお金がかかるので、貧しい人は屋根を作らないそうです。中心部から少し行っただけでそんな風になっていることに驚きました。どうして一部は裕福なのにそのすぐ隣にはその恩恵を受けられない人がいるんだろう、と疑問に思いましたね。」

「ムヘレスの住むカラバイヨは治安の悪いスラム街と聞いていたし、チカウニで説明するときも『スラム街』という言葉を使うのですが、実際は昼間はそこまで治安も悪くなくて、思っていたスラム街のイメージとは違いました。ムヘレスの人たちに会った時は、編み物をしているのが楽しそうで、その様子を見て、この人たちの商品を普段売っていたのだなあと思うと嬉しかったです。ムヘレスのメンバーは編み物が好きだそうです。それに、男性優位な社会であるペルーで、女性たちが男性たちと同様に仕事を持つことで、女性たちの自信や自尊心に繋がっているという話を聞きました。単に募金するよりも、この商品を売ることが彼女たちにとっていい方法なのだな、と改めて認識しました。」

 

代表として、そして“新しいチカウニ”とこれからの自分

 「代表になってからは、マネジメント的な部分での苦労が多いです。というのも、ありがたいことに今年は例年の二倍くらいの新入生が入ったので、部員同士の交流を図ることと、ミーティングのときにみんなの意見をいかに吸い上げるかということが難しいです。ミーティングに参加しているのに、そこに『いるだけ』になってほしくなくて、班分けをして少人数で話し合う機会を設けて発言しやすくしています。チカウニがやっていることは経営に近いけど、あくまでもサークルなので部員の自主性にかかっています。だけど、国際協力という派手で大規模なイメージと、地域のイベントの話し合いなどの地道な活動とのギャップもあって、わかりやすい達成感を感じにくいのです。」

イベントでの販売の様子

「実際に、私が一年生のときに私以外の同期がみんな辞めてしまいました。でもせっかく興味を持ってくれたのなら、“なんとなく”でやめて欲しくないんです。なので今年は、いままで以上に色んな活動を試みたり、部員一人一人に役職を持たせたりして工夫しています。そして、最終的にペルーへ行って自分たちのやってきたことの意味を感じてほしいと思っています。」

「今年は意欲があり自発的に動く後輩が多くて、色んなことを試みています。勉強会を開いて部員内で知識を共有したり、ネット販売もできればと考えています。新しく試みていることの中で一番大きいのは、株式会社イオンさんにフリースペースを借りて、商品を販売する計画です。イオンさんがフェアトレードや学生支援にも力を入れている企業というのを耳にしたことがあったので、自分たちもこれを機にやってみようと思いました。そこでは、自分たちの手作りのピアスやドリームキャッチャーなども扱う予定です。単に募金などで向こうの支援をするのではなくて、自分たちの勉強にもなるという関係がベストだと思います。また、その立ち上げたシステムを一回きりではなく、継続的に活用できるように頑張りたいですね。」

- チカウニでの活動、他にも様々な活動を通して「国際協力」だけでなく、そこから広がって他のことにも興味を持ったという染谷さん。最後に今後の自分についても含めてお話を伺いました。

 
「チカウニの活動で小平市の人たちと話をしたり、大学生活で色んな人と話していく中で、自分は人と話すのが好きであるということに気がつきました。新しいことに興味を持って、新しいコミュニティに飛び込んで、そのコミュニティで出会った人たちと話したりすることで影響を受けて、また新しいことに興味を持つ、という循環がよくあります。今は、地域や遠い国同士を自分がつなぐことに興味があります。消費者と生産者を繋いでいくという意味では、コンサルタントに近いのかもしれません。大学を出てすぐにというのは難しいですが、いくつかプロセスを経て、コミュニティとコミュニティを繋げて交流を広げていく、というような仕事をしたいと思っています。」